氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 戻った自室の無駄に大きな寝台の(ふち)に、ハインリヒは着替えもせずにただ座っていた。背を丸め、うつむいたまま何時間も経過していた。

(一体わたしはどうしたいのだ)

 なぜ、彼女なのか。どうしてこんなにもアンネマリーを求めてしまうのか。
 王太子として(おのれ)(りっ)しようとすればするほど、その真逆(まぎゃく)の感情に支配される。短い時間で振り子のように揺れ動く気持ちに、自分自身がついていけない。

 しかし、求めたところで指一本触れることすら(かな)わない。もし、目の前で彼女が(がけ)から落ちるようなことがあったとしても、自分に彼女を救うことなどできはしないのだ。
 バルバナスに言われるまで、アデライーデの事すら頭から抜け落ちていた。決して忘れるなど許されないと言うのに。

(託宣の相手が見つかりさえすれば――)
 すべてが変わるのだろうか?

 (つい)の託宣を受けた者同士は、強く()かれ合うと言う。今までは半信(はんしん)半疑(はんぎ)でいたが、ジークヴァルトのあの変わりようを()の当たりにすれば、それは真実なのだと認めざるを得ない。

 自分もその誰かと(めぐ)りあえば、アンネマリーへのこの思いも、魔法が()けたように()()せるのか。

(――消せるものなら、消してしまいたい)

 ハインリヒは乱暴にシーツにくるまり、幼子(おさなご)のように丸くなってきつく目を閉じた。




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