氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ああ、ああ、それ以上握りこむな。軽傷じゃすまなくなるぞ」
 腕を引き、子供の頃にしていたように乱暴に頭をかき混ぜるようになでまくる。

「おら、そんなしけた顔すんなって。ここにいたくねぇなら、もう部屋に戻って今夜はさっさと寝ちまえ。ディートリヒにはオレから言っといてやるからよ」

 そう言ってバルバナスは扉の前で控えていた騎士に、ハインリヒを部屋まで送るように命じた。どのみち夜会は一晩中行われる。帰りたい奴は帰るし、寝たい奴は休憩室で休む。ようは夜会の後半は好き勝手にしていいのが慣習だった。

 バルバナスは有無を言わさず、ぐちゃぐちゃの頭になったままのハインリヒを、部屋から無理矢理追い出した。

「ちと、(はず)したのか?」

 ハインリヒはアデライーデの件で思いつめていたわけではなさそうだった。なんとなくそう感じていたが、言ってしまったことは仕方がない。かえって思い出させてしまったことは悔やまれるが。

「……こんな国、さっさと滅びちまえ」

 国の騎士団の(おさ)である男が吐き捨てた言葉は、誰の耳にも届くことはなかった。

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