氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「んな与太(よた)(ばなし)、誰が信じるかよっ!」

 そう言って、ごろつきのひとりがカイにいきなり殴りかかった。少女が小さく悲鳴を上げる。

「そこは素直に信じとこうよ」

 カイはその(こぶし)を難なく()けて、つかんだ男の腕を後ろにねじり上げた。ごりッと嫌な音がする。肩を押さえて絶叫する男の背を押して、道端(みちばた)の人の邪魔にならない方へと転がした。

「貴様ぁ!」

 仲間の男がいきり立って殴りに来る。その男の(ふところ)に素早く入ると、カイは肝臓を突き上げるように(こぶし)を腹に叩きつけた。泡を吹いた男がもんどりうって倒れる前に、いまだ少女の腕を拘束していた男の背後に回って、その首筋に短剣をひたりと押し当てる。

「ねえ、おじさん。オレが本気になる前に、その手、離してくれないかなぁ?」

 抜き身の刃をわずかに強く押しつけ、耳元で冷たく(ささや)く。一瞬で形勢不利となった男は、背後のカイにおののきながら、少女の腕を掴む手をぱっと離した。それを見届けると、カイは男の首筋にトンと手刀をあびせ、あっけなくその場に昏倒(こんとう)させる。

「はじめっからそうしてれば痛い目見ないで済んだのに」

 短剣を(さや)にしまってやれやれといったふうにカイが肩をすくめると、すぐ近くで一部始終を見ていた小さな男の子が感嘆の声を上げた。

「お兄ちゃん、すごい……!」

 目がキラキラと輝いている。憧れのヒーローに出会った少年の目だ。カイはその少年の前で片膝(かたひざ)をつくと、その頭にポンと手を置いた。

< 323 / 684 >

この作品をシェア

pagetop