氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 深々と頭を下げたベッティの横で、リーゼロッテは挨拶(あいさつ)する間もなくカイの背を見送った。

「きっとお忙しいのね」

 あの様子だとジークヴァルトにも何も言わずに帰っていったのかもしれない。アポなしでやってきたうえに勝手に帰ってしまうなど、貴族としては完全にアウトな行為(こうい)だ。
 もしカイを止めなかったことで怒られたりしたら、ベッティが可哀そうだ。そう思ってリーゼロッテは「わたくしからもジークヴァルト様にお話ししてみるわ」とベッティに微笑んだ。

 先ほどのカイの様子は、いつもの彼らしくなかった。

(星を堕とす者……)

 なんとなくその言葉が不吉なもののように感じられて、リーゼロッテは漠然(ばくぜん)とした不安を前に、胸元(むなもと)の守り石を無意識に握りしめた。




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