氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 だが、そのただひとりを探すのは困難を極めた。しかも、貴族の中で該当する者はいないときたから、あとは市井(しせい)(まぎ)れた貴族の()とし(だね)を探すよりほかはない。しかもそう方向転換したのは、ほんの数年前の話だ。

(鳥が運んで芽吹(めぶ)いた種を、森の中で探しまわるようなものだ)

 そうは思ってもやらないことには先に進めない。そもそも降りた託宣に漏れがあるなど、あってはならないことなのだ。王家と神殿で何重にもチェックが入る最重要事項のはずなのに、なぜそうなってしまったかも曖昧(あいまい)なまま、今に至っていた。

(とりあえず、最新の記録から辿(たど)っていくか……)

 カイが知る限り、最後に降りた託宣は、リーゼロッテが受けたものだ。
 手に取った冊子をぱらぱらとめくりながら、カイはその眉間にしわを寄せた。無言でそれを戻すと、その隣の冊子を引き抜いていく。

 一つの冊子はそれほど厚くなく、ひとりの人間に降りた託宣の内容を記しているようだった。製本はしっかりしているものの、()表紙(びょうし)はおろか表紙にも何の記載もない、ただ青い無地の上質な厚紙(あつがみ)で閉じられている。中を開いて確認しないことには、いつ(ごろ)誰に降りた託宣なのか分からないものとなっていた。

「……なんだよ、これ」
 無意識にカイの口からそんな言葉がもれる。

「ねえ、レミュリオ殿。コレ、なんでこんなにバラバラに並んでるの?」

 (いら)()ちを隠しもせず、カイは後ろにいるレミュリオに問いかけた。

「バラバラ、と申しますと?」
「冊子の並びが年代を無視して無茶苦茶なんだけど。これ管理の怠慢(たいまん)なんじゃない?」

 見ると順番がバラバラになっているのは、ここ百年くらいの冊子のようだ。それ以前はきちんと託宣が下りた順序で並べられているようだった。
 百年の間で降りた託宣となると、それなりの数がある。これを順に並べなおすだけでも骨が折れそうだ。

「はて、怠慢と言われましても、この書庫に入れるのは時の神官長のみ。しかも、新たな託宣が降りたときのみ開放されると聞いております。今回は、特例中の特例ですよ」

< 378 / 684 >

この作品をシェア

pagetop