氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 レミュリオの言う通り、監視がいようといまいとカイの行動は制限される。ここに記されている情報を、書き写すことも持ち出すことも、龍が許すことはないからだ。カイにできることといえば、この膨大な量の記録から必要な情報を探し出し、それを頭の中に叩き込むだけだ。

(建国からの記録がすべて眠っているのか)

 カイはここ何年もの間、託宣にまつわる情報を集め続けてきた。そうは言っても高々(たかだか)ここ四・五十年の間の物だ。今、目の前にあるのは八百年以上の記録である。それに、昔は降りる託宣の数は、今よりもはるかに多かったと聞く。

 好奇心から中でも一番古そうな冊子を手に取る。時間がないのは分かっているが、二度とこんな機会はやってこないだろうことを考えると、その誘惑には勝てなかった。

(始まりの託宣……字体が古くて解読は困難か……)

 悠久(ゆうきゅう)の時を経てきたその古びた冊子(さっし)は、思いのほか丈夫なものだったが、ミミズがのたうち回ったような文字が、難解な言い回しで(つづ)られている。時間をかければどうにかなりそうな気もするが、今はそんな余裕があるはずもない。

 諦めてそれを棚に戻したカイは、下段の(はし)に置かれた一番新しそうな冊子を手に取った。

 ハインリヒの受けた託宣は、今から二年後に王位を継ぐというものだ。この国の王は、その次の託宣を受けた子を(さず)かった時点で、代替わりすることとなっている。

 現王であるディートリヒも、前王妃セレスティーヌとの間にハインリヒを授かった段階で王位を継いだ。それは龍が定めたことであり、この国の王は代々それに従ってきた。

 ハインリヒの託宣の相手の条件は、二年後にハインリヒの子を宿すことが可能な女性、かつ、その身に王家の血をひく者だ。

 その条件に当てはまる女性は、貴族だけでもかなりの人数がいる。未婚・既婚・未亡人問わず、その中に託宣を受けた証である龍のあざを持つ者がいないか、王家と神殿はあの手この手で調べつくしてきた。

 この国において婚姻は、十五歳の成人を迎えた年から許される。二年後にハインリヒと婚姻可能な、現時点で十三歳以上の女性を、カイはここ数年くまなく(さぐ)ってきた。

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