氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(『ルィンの名を受けしこの者、イオを(かん)する王をただひとり(いや)す者』か……)

 ここに記されている名前、せめて託宣が下りた日付だけでも分かれば、ハインリヒの託宣の相手はすぐにでも探し出せるだろう。カイはページをすかしてみたり、(なな)めから(のぞ)いてみたりと、なんとか薄れた文字が読み取れないかいろいろとやってみた。

「くそ、見えやしねぇ」

 諦めて、他の二冊を手に取る。こちらも同様に、託宣を受けた者の名前と日付が薄れていて、まるで読み取ることができない。

(なんだ、この託宣は……?)

 二冊を同時に開いて確認していたカイははっと息をのんだ。

(こっちは『リシルの名を受けしこの者、異形の者に(いのち)(うば)われし(さだ)め』?  もうひとつは「オーンの名を受けしこの者、ラスの(つい)となる……」)

「星に()とす者」

 無意識に続きを声にしたカイに、レミュリオが(いぶか)()な顔を向けた。

(……星に、堕とす者)

 自分の中に落とし込めるように、もう一度その言葉を胸中でつぶやくと、カイは驚き顔から一転、突如(とつじょ)、大声をあげて笑いはじめた。

「はっはは、ははは……!  ほし、に、おとすものっ、ははっほしにっ、おとっすっははっははははははは……っ!」

 壊れたおもちゃのように笑い続けるカイを前に、レミュリオが困惑顔となる。

 まなじりに涙をためて笑い続けながら、カイは立ち上がって床に積まれた冊子を手際(てぎわ)よく棚の中へと戻していった。()造作(ぞうさ)に積み上げられていたかのように思われた冊子は、年代ごとに順番に並べなおされていく。

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