氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 最後の一冊を差し込んだその直後、前触れなく棚の上から一つの冊子が落ちてきた。一瞬()(がま)えたカイだったが、床に落ちたそれを無言で拾い上げ、なんとはなしに開いてみる。
 それは年代と数字だけが並べられている、今までの冊子とは異なるものだった。笑うのをやめたカイは、再び真剣な表情となる。

(これは、その年に降りた託宣の数か……?)

 年によって数字が異なり、何もない年もある。カイは自身が記憶している各年に降りた託宣の数と、そこに記載されている数字と照らし合わせてみた。

(数が合わないのは八百十三年と、八百十五年……)

 その答えに行きつくと、カイはその冊子を乱暴に棚に戻し、部屋の出口へと向かった。

「おや? もうよろしいのですか?」

 壁にもたれかかったままのレミュリオの脇を素通りして、カイは足早に神殿の出口を目指し去っていく。

「せっかちな方だ。もうしばし、この空気に触れていたかったのですがね」

 残念そうに姿勢を正すと、レミュリオは静かに扉をくぐった。数歩出て振り返る頃には、書庫の扉はひとりでに閉じていく。薄暗い廊下は再び重い沈黙に閉ざされた。

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