氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
第17話 雪の令堂
公爵家のエントランスを出ようとしたところで、ジークヴァルトはその足を止めた。
「今日は雪が降っている。やはり行くのはやめろ」
「旦那様、何、馬鹿なことをおっしゃっているんですか。これからの季節、雪が降らない日のほうがめずらしいでしょう? いい加減にあきらめてください」
リーゼロッテの手を離さないまま動こうとしないジークヴァルトに、マテアスがあきれたような視線を向けた。
「ならば、やはりオレも行こう」
「招待もされていないお茶会に参加する馬鹿がどこにいるというのですか。それに、旦那様はこのあと王城へ出仕でしょう? 王子殿下の警護をすっぽかそうなど、何、ふざけたことおっしゃっているんですか」
マテアスの言葉にぐっと口を引き結ぶと同時に、リーゼロッテをさらに自身の方に引き寄せた。意地でも離すまいとする意思が伝わってきて、エスコートされているというより、がっちり捕獲されているような気分になる。
「あの、ヴァルト様」
「なんだ?」
「わたくしウルリーケ様に失礼のないよう十分気をつけますわ」
余裕をもって出ないと、約束の時間に遅れてしまうかもしれない。困ったように見上げると、ジークヴァルトは「そんなことは心配していない」と不機嫌そうに返してきた。
「今日はエラもおりますし、護衛の方もいらっしゃるのでしょう? それにヴァルト様の守り石もございますから……」
今日のリーゼロッテは、昼間のお茶会仕様に適度に着飾っている。個人的なお茶会なのもあり、装いは華美になりすぎないものだ。しかし、まとめた髪には青い石が光る髪飾りがつけられ、その両耳にも青い石が揺れている。
楚々とした首飾りにも同様に青い石が揺らめき、今はコートを羽織って見えないが、纏うドレスにも大小さまざまな青い石が、数えきれないほど縫いつけられていた。
もちろんそのすべてがジークヴァルトの守り石だ。魔よけのニンニクよろしく飾られまくった守り石に、異形たちは手や足を出すことはおろか、いつも以上に近づくことすらできないだろう。
それでも一向に動こうとしないジークヴァルトに「旦那様」とマテアスが渋い顔を向けた。
「往生際が悪いぞ、ジークヴァルト。リーゼロッテは責任をもって守ってやるから、いい加減に観念しないか」
その声に振り向くと、ひとりの騎士がこちらに歩いてきた。公爵家の護衛服を着た壮年の男だ。その後ろにエーミールが続く。ふたりの姿を認め、ジークヴァルトは嫌なものを見るような顔をした。
「ユリウス様、ご無沙汰しております」
ゆるんだ隙にその手をすり抜けて、リーゼロッテは騎士の前で淑女の礼をした。彼はユリウス・レルナー。エーミールの叔父だ。
「おう、今日はよろしくな」
にかっと笑ってユリウスはリーゼロッテの手を取り、その指先に口づけようとした。寸でのところでジークヴァルトがリーゼロッテを引き寄せ、奪い返すようにその身を抱え込む。
「今日は雪が降っている。やはり行くのはやめろ」
「旦那様、何、馬鹿なことをおっしゃっているんですか。これからの季節、雪が降らない日のほうがめずらしいでしょう? いい加減にあきらめてください」
リーゼロッテの手を離さないまま動こうとしないジークヴァルトに、マテアスがあきれたような視線を向けた。
「ならば、やはりオレも行こう」
「招待もされていないお茶会に参加する馬鹿がどこにいるというのですか。それに、旦那様はこのあと王城へ出仕でしょう? 王子殿下の警護をすっぽかそうなど、何、ふざけたことおっしゃっているんですか」
マテアスの言葉にぐっと口を引き結ぶと同時に、リーゼロッテをさらに自身の方に引き寄せた。意地でも離すまいとする意思が伝わってきて、エスコートされているというより、がっちり捕獲されているような気分になる。
「あの、ヴァルト様」
「なんだ?」
「わたくしウルリーケ様に失礼のないよう十分気をつけますわ」
余裕をもって出ないと、約束の時間に遅れてしまうかもしれない。困ったように見上げると、ジークヴァルトは「そんなことは心配していない」と不機嫌そうに返してきた。
「今日はエラもおりますし、護衛の方もいらっしゃるのでしょう? それにヴァルト様の守り石もございますから……」
今日のリーゼロッテは、昼間のお茶会仕様に適度に着飾っている。個人的なお茶会なのもあり、装いは華美になりすぎないものだ。しかし、まとめた髪には青い石が光る髪飾りがつけられ、その両耳にも青い石が揺れている。
楚々とした首飾りにも同様に青い石が揺らめき、今はコートを羽織って見えないが、纏うドレスにも大小さまざまな青い石が、数えきれないほど縫いつけられていた。
もちろんそのすべてがジークヴァルトの守り石だ。魔よけのニンニクよろしく飾られまくった守り石に、異形たちは手や足を出すことはおろか、いつも以上に近づくことすらできないだろう。
それでも一向に動こうとしないジークヴァルトに「旦那様」とマテアスが渋い顔を向けた。
「往生際が悪いぞ、ジークヴァルト。リーゼロッテは責任をもって守ってやるから、いい加減に観念しないか」
その声に振り向くと、ひとりの騎士がこちらに歩いてきた。公爵家の護衛服を着た壮年の男だ。その後ろにエーミールが続く。ふたりの姿を認め、ジークヴァルトは嫌なものを見るような顔をした。
「ユリウス様、ご無沙汰しております」
ゆるんだ隙にその手をすり抜けて、リーゼロッテは騎士の前で淑女の礼をした。彼はユリウス・レルナー。エーミールの叔父だ。
「おう、今日はよろしくな」
にかっと笑ってユリウスはリーゼロッテの手を取り、その指先に口づけようとした。寸でのところでジークヴァルトがリーゼロッテを引き寄せ、奪い返すようにその身を抱え込む。