氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「いい、これを届けに来ただけだ」

 取り落とした箱を拾い上げながら、ジークヴァルトは中身を取り出した。差し出されたのは守り石のペンダントだった。

「あ……わざわざ持ってきていただけたのですね」

 守り石を受け取って、ぎゅっと両手で握りしめる。ジークヴァルトの波動が伝わってくる。そのなじんだ青を見つめて、リーゼロッテは心から安心したように頬を(ゆる)めた。

 不意に腕を引かれてジークヴァルトに抱き寄せられた。ぎゅうと抱きすくめられて、守り石を握りしめたまま、リーゼロッテは身動きが取れなくなる。

 無言のまま続く長い抱擁(ほうよう)に、リーゼロッテはただ狼狽(ろうばい)した。苦しくはないが、ここからどうしていいのかがわからない。薄い夜着からジークヴァルトの熱が伝わってきて、自然と頬が熱くなる。

「あ、あの、ヴァルト様……」
 それ以上は何もせず、何も言ってこないジークヴァルトに、リーゼロッテはやっとの思いで声をかけた。

「絶対にオレが守る」

 (しぼ)り出すような声で言われ、リーゼロッテははっと上を見上げた。昼間の続きなのだと思うと心が痛む。自分がしっかりしなくては、これからもジークヴァルトは、こうやって心をすり減らしていくのだろう。

「ヴァルト様、わたくしは……」

 そう言いかけたとき、ジークヴァルトはリーゼロッテをその身から引きはがした。両肩に手を置いたまま、じっと見つめてくる。

「明日、朝にまた来る」

 それだけ言って、ジークヴァルトは奥の書斎らしき部屋へと(きびす)を返した。何か大きな物が動く音がして、その後にジークヴァルトの気配は消えた。


「……ねえ、ベッティ。わたくし、ジークヴァルト様のためにも、はやく独り立ちしないとだめなのよね。おんぶにだっこの子供扱いに、このまま甘んじているわけにはいかないもの」

 戻ってきたベッティに向けてそうもらす。その決意に満ちたリーゼロッテを見やって、ベッティはぽつりと言った。

「それ、方向性、絶対に間違ってますよぅ」

 ベッティはそのとき、心よりジークヴァルトに同情したのであった。




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