氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「バルバナス様! こちらにいらっしゃいましたか!」
 暗がりの廊下の向こうから、ひとりの騎士が息を切らして駆け寄ってくる。

「なんだぁ騒がしい」
「王城から伝令です!」

 筒状に丸められた書状を手渡され、バルバナスはその紐を解いた。その表情はすでに騎士団の長のものとなっている。素早く書状に目を通すと、それをぽいとニコラウスに投げてよこした。

「特務隊に緊急招集要請だ」
「え? 何かあったんですか?」

 さっさと歩き出したバルバナスの背に、ニコラウスが慌てて問いかける。バルバナスは立ち止まって、上半身だけ振り返った。

「星を堕とす者が出たんだとよ。グレーデン家と、――フーゲンベルク家にな」
「な!?」

 ニコラウスは思わずアデライーデの顔を見やる。フーゲンベルクはアデライーデの生家だ。だが、そこにいたのは、同じくすでに騎士の顔をしたアデライーデだった。

「夜明けと共に出立する。眠れる奴は今のうちに仮眠しとけ」

 そう言い残して、再びバルバナスは歩き出した。その後ろをアデライーデが無言でついて行く。
 残されたニコラウスは手にした書状に目を落とし、再びふたりが消えた廊下の先に視線を戻した。

「……オレの三連休が」

 漏れ出た言葉は、寒々しい廊下に、わびしく吸い込まれていった。

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