氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「それにしても、ベッティは龍の託宣のこと、すごく詳しいのね」
「ある方に教えてもらったのですがぁ、わたしは知ってもいいと龍に判断されたんでしょうねぇ。知る必要がない人間には、その存在すら話すことはできませんのでぇ」

 その言葉にリーゼロッテの顔が曇る。

「エラに話せなかったら、わたくし一生嘘をつき続けなくてはならないのね……」
「そんなにお気になるなら、公爵様にご相談なさってはどうですかぁ?」
「それもそうね」

 ひとりで思い悩んでいても仕方ない。せめて異形の事なら話してもいいか、ジークヴァルトから王子に聞いてもらうのがいいかもしれない。

「ううむぅ。やはりどこかが違いますぅ」

 (うな)りながらベッティが、結いかけていた髪をばらばらとほどいた。納得がいかない様子で、リーゼロッテの髪に再び櫛を通していく。サイドの髪を分けて編み込んでは、またその手を止めるを繰り返す。

「違う、そこはそうではない」
「あぁ、なるほどぉ。ではここはこうして、こうですかぁ?」
「そうだ。次はここからこっちに……いや違う、貸してみろ」
「ヴァルト様!?」

 急に割り込んできたジークヴァルトの声に、驚きながら振り向いた。

「動くな。いいから前を向いていろ」
「そうですよぅ。リーゼロッテ様はおとなしく座っていてくださいぃ」

 ぐいと顔を前に向けられて、リーゼロッテは正面の鏡に向き直った。

(何なの、この状況は……)

 ジークヴァルトが自分の髪をいじる様が鏡に映る。その横でベッティが、その手つきを熱心に覗き込んでいた。

「なるほどぉ、そこはそうなっていたのですねぇ。さすが公爵様ぁ、リーゼロッテ様の髪質を熟知なさっておいでですぅ。それにしても櫛も使わず、長い指を駆使した見事な指使い! うぅむぅ、悔しいですぅ。わたしの指があと五センチ長かったらよかったのにぃっ」

(いや、そんなに長かったら、もうシザーハ〇ズだから……!)

 もはや脳内突っ込みをするくらいしかやることがない。リーゼロッテは髪が結いあがるまで、手持ち無沙汰に、鏡の向こうをみつめ続けた。

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