氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
「お待たせいたしました」

 王妃の離宮の入り口まで行くと、ジークヴァルトがたたずんでいるのが見えた。昨夜と今朝は、書斎にある隠し通路からやってきたが、さすがに今回は正面から迎えに来たようだ。ジークヴァルトは近衛の騎士服ではなく、公爵家当主としての正装をしている。
 同様に、王族に謁見(えっけん)するにふさわしい(よそお)いとなったリーゼロッテは、ジークヴァルトにエスコートされて、王妃の離宮から王城へと向かった。

 時折、せわし気に行き交う城勤めの者とすれ違う。自分たちの姿を認めると、みな慌てたように廊下の端に()けて礼をとった。一人前の貴族として扱われているのだと思うと、気が引き締まる。ほんの数か月前、ジークヴァルトに抱っこ輸送されていた頃とは違うのだ。

 今目指しているは、王太子用の応接室だ。以前、幾度となく通った場所だが、王妃の離宮からの道のりは目新しいものばかりだった。

(白の夜会の時も思ったけど、王城って本当に広いのね)

 途中、長い昇り階段の前まで来たときに、ジークヴァルトは足を止めてリーゼロッテをじっと見下ろしてきた。何か言いたげなその顔を前に、リーゼロッテははっとして身構える。

「わたくし、ちゃんとひとりで昇れますわ」

 (すそ)の長いドレスは、裾を持ち上げながら慎重に昇る必要がある。手を引かれて昇るなど、かえって危ない行為だ。

「問題ない。お前は軽い」

 かがみこんで手を伸ばしてくるジークヴァルトを前に、思わず半歩飛びのいた。
(持ち上げるつもりだったんかい!)

 よほどの幼児でない限り、子供だってひとりで昇るものだろう。自立しようと決意した矢先に、とんだ逆行ぶりである。

「わたくしはもう一人前の貴族ですわ。階段くらいひとりで昇らせてくださいませ」

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