氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 まだ明かりが灯っていない廊下の先は、闇が広がるばかりで、その奥がどこまで続いているのかさえ分からない。胸元の守り石をぎゅっと握りしめて、リーゼロッテは無意識にハインリヒの方へと身を寄せようとした。

「それ以上は近づかないでくれ。また、先ほどのような目にはあいたくないだろう?」

 白い手袋をはめた手で制されて、リーゼロッテははっとなりハインリヒから距離をとった。
 ハインリヒ王子とぶつかったとき、王子の守護者が現れた。まるでリーゼロッテを王子から引き離すかのように。

「あれは本当に、王子殿下の守護者だったのですか……?」
「ああ、残念なことにね」

 王子の言葉に異を唱えるのも(はばか)られるが、そう聞かずにはいられなかった。だがハインリヒは、その問いを意に介した様子もなく歩を進める。

「あの女はわたしの守護者で間違いないと、そう神託(しんたく)に出た」
「神託に……?」
「シネヴァの森にいる巫女の神託だ。リーゼロッテ嬢も森の巫女の存在は知っているだろう?」

 この国の最北の地に、オデラ()という(みずうみ)がある。それを取り囲むように大きな森が広がっていて、そこに魔女が住んでいるらしい。そんな話なら聞いたことがあった。

「森には魔女が住んでいると」

 戸惑ったように答えると、ハインリヒ王子は立ち止まって、苦笑いを向けてきた。

「魔女か……。当代の巫女はわたしの高祖(こうそ)伯母(はくぼ)にあたる方だが、まあそう言われても仕方のないことか」

「わたくし、不敬なことを……!」
 はっと息をのみ、顔を青ざめさせる。

「いや、いい。婚姻の託宣を受けた貴族は、いずれシネヴァの森に向かうことになる。リーゼロッテ嬢も、その時に意味が分かるだろう」

 リーゼロッテの言葉を気にした様子も見せず、王子は再び歩き出した。それ以上は聞き返すこともできずに、リーゼロッテも慌ててそれについて行った。

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