氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 王子が進むごとに壁の明かりが順に灯されていく。明るい範囲は広がったが、この廊下はまだまだ続いているようだ。

 不意に飾り気のなかった壁に、立派な額縁の絵が現れた。その前で一旦立ち止まると、ハインリヒはその絵を静かに仰ぎ見る。

「ここに並ぶのは託宣を受けた歴代の王と王妃たちだ」

 王子が見上げているその絵は、ディートリヒ王の肖像画だった。燃えるような赤毛に金色の瞳をしたディートリヒ王が、じっとこちらを見下ろしている。

 ハインリヒは次に反対側の廊下の壁に視線を向けた。そこにも一枚の肖像画が掲げられている。

「向かいにあるのが王妃の肖像だ」

 そこにはイジドーラ王妃ではなく、ハインリヒにそっくりな女性が描かれていた。その右頬から顎のラインにかけて龍のあざがある。
 前王妃のセレスティーヌなのだろう。先ほど視た守護者もハインリヒと似ていると思ったが、そこに描かれているセレスティーヌは、生き写しと言っていいほどだった。王子が化粧をしたら、きっともっとそっくりになるに違いない。

 そんな不敬なことを思っていると、ハインリヒが苦しげにつぶやいた。

「いずれ、ここにわたしの絵も飾られる。だが……」

 ハインリヒが王となった暁に、向かいに飾られるべき王妃となる存在は、いまだ誰とも分からず行方知れずだ。その人物が存在するのかさえも危ういところだ。

 王子は再び歩き始めた。進むにつれて、廊下の両側に掲げられる歴代の王たちの肖像画が増えていく。何十枚ものその横を通り過ぎたあと、ようやく廊下の最果てへとたどり着いた。

 その突き当りの正面にも、また二枚扉があった。同じように龍のレリーフが施されているが、入り口の扉の半分くらいの大きさだ。

「ここは託宣の間だ」

 そう言いながら、ハインリヒは龍のレリーフに向けて手をかざした。手のひらの先が紫を帯びるものの、しかしその扉が開くことはなかった。それを認めると、ハインリヒはリーゼロッテを静かに振り返る。

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