氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 トラブルメーカーのような自分が、それでも婚約破棄を言い渡されないのは、ひとえに龍の託宣があるからだ。ジークヴァルトには相手を選ぶ権利さえない。

 貴族に生まれたからには、意に沿わない婚姻も当たり前の事なのかもしれない。国の加護を担う龍は絶対的な存在だ。その龍が決めたことなら、従わざるを得ないのはなおさらだろう。

 だが、王子のことを思うと、龍とは一体何なのだと憤りを感じてしまう。

(まるで国のために、みんなが犠牲になっているようだわ……)

 ジークヴァルトも、王子も、アデライーデも――

 託宣を受けた者もそうでない者も、龍に翻弄されているように思えてならない。

「ジークヴァルト様は、王子殿下の守護者の事をご存じだったのですか……?」

 リーゼロッテの頭に口元をうずめたまま、ジークヴァルトは「ああ」と短く答えた。

「アデライーデ様の怪我の事も……」
「大体のいきさつは聞いている」

 王子はなぜ自分にあの話をしたのだろう。守護者のことはともかく、アデライーデとの詳細は伏せたまま説明することもできただろうに。

「あれは事故だ。誰が悪いという話ではない」

 そっけなく言ったあと、ジークヴァルトはさらにリーゼロッテの後頭部に顔をうずめてくる。なんだか頭のにおいをかがれているような気もするが、できれば気のせいだと思いたい。

(これは、あれね。犬や猫のにおいを思わずかいでしまうような、そんなヤツなんだわ、きっと)

 ついでに言うと、そのままそこでしゃべらないでほしい。吐息がかかってくすぐったいことこの上ない。

 だが、手のかかる婚約者に神経をすり減らしているジークヴァルトを思うと、むげにやめてくれとは言えなかった。ひとり立ちを決意した矢先に、これでは先が思いやられてしまう。

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