氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「申し訳ございません。わたくし、ご心配ばかりおかけして……」
 先ほども、絶対にそばを離れないと約束したのに、それをあっさりと破ったのは自分の方だ。

「お前が無事ならそれでいい」
 頭皮に唇を押しつけたままジークヴァルトはくぐもった声で答えた。

「明日、オレは一度公爵家に戻る」

 そう言いながらも、リーゼロッテを抱える手には、ぎゅっと力が入れられた。離したくない。その腕はまるでそう言っているかのようで。
 自分のそばを離れるのが心配なのだろう。そのやさしさに、リーゼロッテの心はちくちくと痛みを訴える。先ほどよりもだいぶ温かくなった大きな手に、自分のそれをそっと添えた。

「今度こそきちんとおとなしくしております。この離宮は安全なのでしょう? わたくし、このお部屋から、一歩も外に出ないとお約束いたしますわ」

 振り向いて、ジークヴァルトの顔を覗き込む。この星読みの間には異形の者は入れない。守り石がなくてもまったく問題ないほどだ。

 安心させるように微笑むリーゼロッテの頬に、ジークヴァルトが片手を添えてきた。顔を仰向かされて、青い瞳と見つめ合う。

 ジークヴァルトの瞳はいつ見ても綺麗だ。守り石の青と同じで、いつだってリーゼロッテの心を奪う。伏し目がちにゆっくりと自分に近づいて来るその顔を、リーゼロッテは瞬きもせずじっと見つめた。

「あのう、お取込みのところ申し訳ございませんがぁ、リーゼロッテ様の夕餉(ゆうげ)の支度が整いましたぁ。湯あみも済ませて早めにご就寝なさいませんとぉ、美容とご健康に差し障りますよぅ」

 唇まであと少しという所で動きを止めたジークヴァルトの眉間にしわが寄る。そのタイミングで、く~きゅるるとリーゼロッテのお腹の虫の音が部屋の中響きわたった。

(いや! なんで今鳴るの!?)

 頬を朱に染めて、リーゼロッテは自分の腹をジークヴァルトの腕越しに押さえた。昼に王子に言われて力を流したせいで、いつも以上にお腹が減っているのかもしれない。

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