氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 一言で言えば疎外感だ。公爵家の人間にだけならまだしも、リーゼロッテに対してさえそれを感じる自分がいる。それがたまらなく歯がゆかった。

 そんなときに先ほどの騒ぎだ。ようやく王城から戻ってくると知らせを受けた矢先に、血相を変えた公爵がリーゼロッテを抱えて飛び込んできた。苛立った王兄に、負傷したような幾人もの騎士たち。騒然となる公爵家を前にして、何もなかったなどと誤魔化されるはずもないだろう。

「目覚めたら、直接(たず)ねるといい」
 静かに立ち上がり、公爵はこちらを振り返った。

「彼女の言葉を信じてやってくれ」

 そう静かに言うと、再びリーゼロッテの寝顔を覗き込む。その指を這わせてそっと頬を撫でていく。

「明日の朝、彼女は腹を空かせているだろう。厨房には伝えてある。目が覚めたら、以前のように食べさせてくれ」

 公爵は最後に、蜂蜜色の髪をひと房持ち上げた。愛おしそうにその先に口づけると、髪はするりと指から滑り落ちていった。そのままマテアスの待つ居間へと向かい、ぱたんと扉は閉められた。

 残されたエラは寝台へと近づき、その寝顔を確かめる。

「リーゼロッテお嬢様……」

 先日のグレーデン家での騒ぎ。その直後に王城へと連れていかれたリーゼロッテ。あの裏庭で、リーゼロッテを呼ぶように声を荒げたバルバナス。
 リーゼロッテもあの場所に連れていかれたのではないか。昨日、手にしていた小瓶が突然割れたことを思い出し、言い知れない不安ばかりが胸に込み上げる。

(どうか、どうかお嬢様が、恐ろしい目に合っていませんように――)
 エラは寝台の傍らに膝をつき、天に祈った。

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