氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 バルバナスは苛立たし気に廊下を進んでいた。リーゼロッテの力は規格外だ。王城での騒ぎは聞いてはいたが、まるで常識が通じない。

 最早(もはや)、ここにいる意味はなかった。意識を失った騎士団員の回復を待ち、すぐにでも城塞へ帰還だ。あの異形の監視は公爵家に任せておけばいいだろう。

「おい、アデライーデはどこにいる?」

 道案内を務めていた家令のエッカルトに問う。連れてきた騎士の半数は気を失ったが、公爵家の人間は、最後まで全員が意識を保ったままだった。そのことにも苛立ちを覚える。

「アデライーデお嬢様は、朝一番でお出かけになられました」
「ああ? 誰がそんなことを許した?」

 アデライーデが自分に黙ってどこかへ行くなどあり得ない。バルバナスは足を止めてエッカルトを睨みつけた。

「恐れながら、お嬢様は休暇中と伺っております。どこへ出かけるのもアデライーデお嬢様の自由かと」
「お前……ふざけてんのか?」
「そのようなこと、とんでもございません」

 地を這うような声を上げるバルバナスに、エッカルトは臆することなく背筋を正した。そこに普段のやさし気な表情はない。慇懃(いんぎん)無礼に鋭い視線を向けるエッカルトを見やり、バルバナスはその胸ぐらを乱暴につかんだ。

「オレはそんな許可を出した覚えはねぇ」
「恐れながら王兄殿下。アデライーデお嬢様がお帰りになった折には、お嬢様の自由にさせてよいと、大旦那様から申し付けられております」

 エッカルトはそれでも臆さない。不敬と切り捨てられようとも、引くつもりはないとその目が語っていた。

「バルバナス様よ。アデライーデはあんたの玩具(おもちゃ)じゃないんだ」

 不意に横から声が割り込んだ。ぎろりと見やると、そこに立っていたのは不遜な表情をしたユリウスだっだ。

「ユリウス・レルナー……貴様まで」
「っていうのが、我が従弟(いとこ)、ジークフリートの口癖でしてね」

< 541 / 684 >

この作品をシェア

pagetop