氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 その言葉にエラはまあ、と言って瞳を輝かせた。昨日のふたりの様子を振り返る。確かに公爵の言動は、エラの目から見てもちょっとおかしく見えた。

「もしかして公爵様は、お嬢様に口づけをなさりたいのではないでしょうか?」
「ジークヴァルト様が? わたくしに?」

 目を丸くしたリーゼロッテは、次いでくすくすと笑いだした。

「あのヴァルト様がまさかそんなこと。エラったら本当におかしいわ」

 思いもよらなかったことを言われたといったリーゼロッテに、エラは少しばかり苦笑した。この幼いお嬢様は、まるで公爵の思いに気づいていない。はた目から見てこれ以上なく溺愛されているというのに、その無垢さがたまらく愛おしく思えてしまう。

「ねえ、ベッティもそう思うでしょう?」

 リーゼロッテが同意を求めると、ベッティは「本当にそうでございますねぇ」と腹話術のように唇を動かさずに早口で答えた。その小鼻がぷくりと膨らんでいる。きっと笑いをこらえているのだろう。

(こんなにも愛らしいお嬢様に、もし公爵様の思いが爆発したら……)
 リーゼロッテが無茶苦茶にされてしまうのではないのだろうか。エラは一瞬で青ざめた。

「ベッティ、あとで公爵様のことで相談が……」

 小声でそう耳打ちをする。この後エラは、王城でのジークヴァルトの暴走を知らされ、リーゼロッテの貞操を守る決意を固めることになる。せめてふたりの婚姻が果たされるまでは、身を挺して守り抜かなければ。

 エラとベッティの間で、リーゼロッテ保護同盟がひそかに結ばれたのであった。




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