氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 アンネマリーはカイに渡せば分かってもらえると言っていた。(うかが)うように手紙を差し出す。

 カイは無言でそれを受け取った。そのまま手にした小箱と手紙を、考え込むようにじっと見つめる。

「あの……カイ様……アンネマリーは……」
 言葉が続かず、リーゼロッテは瞳をさ迷わせた。

「ああ、うん、ちゃんと受け取ったよ。大丈夫。アンネマリー嬢にもそう伝えて?」
「……はい」

 アンネマリーの願い通り、王子の懐中時計はカイに手渡せた。なのに、どうしてこんなにもすっきりしないのだろう。

「大丈夫……アンネマリー嬢は、ちゃんとしあわせになるよ」

 そう言ってカイは、リーゼロッテを安心させるようにやわらかく笑った。しかし、その言葉を聞いたリーゼロッテがぎゅっと眉根(まゆね)を寄せる。そのままへの字に曲げた桜色の唇を、ふるふると小さく震わせた。

(やばい、泣く)

 リーゼロッテを泣かせたとあっては、後でどんな鉄槌(てっつい)を受けるか分かったものではない。ジークヴァルトの無言の圧を想像して、カイは背筋(せすじ)を凍らせた。

(くそ、ハインリヒ様のせいで、完全にとばっちりだ)

 カイの王子への悪態(あくたい)とは裏腹(うらはら)に、しかしリーゼロッテは出そうになった涙をぐっと押しとどめた。

 王子への思いを断とうとしているアンネマリー。あの切なげな水色の瞳を思い出すと、リーゼロッテの小さな胸は締めつけられた。

「もう……どうにもすることはできないのですか……?」
「……うん、こればっかりはね……」

 何を、とは言われなかったが、リーゼロッテの言いたいことは十分わかる。激鈍(げきにぶ)のリーゼロッテにすら筒抜けになるほど、傍目(はため)から見てふたりは()かれ合っていたのだから。

 それなのに、ハインリヒは一体何をやっているのか。もっとうまいやりようは、他にいくらでもあっただろうに。龍の託宣の存在があるにしても、カイは未だに呆れを隠せないでいた。

 手にした小箱を見つめ、カイは思う。ハインリヒはこれを、どんな顔で受け取るだろうかと。
 だが、本人にその気がないのなら、カイにできることは何もない。せめて、アンネマリーの決意を(しか)と届けよう。

(まあ、イジドーラ様だけは、まだ(あきら)めていないみたいだけど、ね)

 今にも泣き出しそうなリーゼロッテを見やりながら、カイは胸中でそんなことをつぶやいた。







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