氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 歯の浮くようなセリフを大真面目に言うと、ハインリヒはアンネマリーと共に託宣の間を出ていった。その背中をやれやれとカイは笑って見送った。

 何がどうしてそうなったのかは後で詳細を聞けばいいだろう。とりあえずは収まる所へ収まったようだと安堵の息をつく。

(龍は一体何を考えているんだか)
 アンネマリーが託宣の相手なら、初めから隠す必要はなかっただろう。

 開け放たれたままのその扉を振り返り、カイはひとり託宣の間に足を踏み入れた。腹立たしいほど、そこは青龍の気に満ちていた。
 誰もいない部屋の中、託宣の泉の前へと進んでいく。

 母親譲りの灰色の髪が泉に映る。その瞬間、泉から光が放たれた。そこに浮かび上がる文字を、カイは何の感慨もなくただ見つめた。

『カイ・デルプフェルト……汝、星に堕ちる者――ラスの名を受けしこの者、その心のまま多くの(いしずえ)となりゆく定め……』

 確かめるまでなく、そこに映し出されるのは、自分が知る文言と一言一句変わることはない。
 光の乱舞をじっと見据え、ほどなくしてカイはその場を後にした。

 無人となった託宣の間の扉が静かに閉じていく。穏やかになった泉は、次に姿を映す託宣者を待ちながら、滾々(こんこん)とその水をその杯に(たた)え続けた。


     ◇

 王城の騒ぎも終息を見せて、騒ぎは酔った者の悪ふざけだったと無理やりに片付けられた。
 再開された夜会は通年通り夜通し行われ、夜明けとともに新年を迎える鐘が王城より王都の街に鳴り響く。

 その鐘の音と共に、王太子の婚約が、社交界のみならず国中に広く知れ渡ったのだった。





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