氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 それに、わたしにはどのルートも選ぶことができない、最大の理由がひとつあった。

 この禁断のKRGでは、すべてのルートに共通して登場する人物がひとりだけいる。それは、ヒロインを何かと手助けしてくれる親友的存在の侯爵令嬢アンネマリーだ。

 ヒロインのよき理解者として登場するアンネマリーは、禁断愛が繰り広げられる殺伐としたストーリーの中、朗らかな笑顔を見せてくれる癒し的存在だった。

 ふわふわの亜麻色の髪をなびかせて、ヒロインとほほ笑みあうアンネマリーのスチルが、わたしの一番のお気に入りだ。落ちこむヒロインをその柔らかそうな胸に抱いて、癒しの女神のように慰めるシーンがあるのだ。

 彼女の人気は、運営にアンネマリーとの百合エンドを求める声があがったほど高かった。わたしはそこまでは望まないものの、アンネマリーとの友情エンドくらいは見たいと心から思ったのを覚えている。

 しかし、どのルートを選んだとしても、アンネマリーは大概は誰かに殺されるという、恐ろしい結末を迎えてしまう。
 どうしてこんなにも可愛いアンネマリーが。運営は鬼なのか。
 バッドエンドではもれなく死、グッドエンドを辿っても大怪我・蹂躙・行方不明・記憶喪失・果ては追放、死刑などなど。

 あの平和なお花畑なルカルートであっても、アンネマリーは無残な死を遂げてしまう。
 およそ悪役令嬢が辿るであろう結末を、なぜか脇役キャラのアンネマリーが必ず迎えてしまうのだ。
 アンネマリーを保護する派閥が当然のように結成された。それは必然と言えるだろう。わたしも即参加した。

 アンネマリーは巨乳キャラだったため、運営の社長(♀)が巨乳に男を寝取られたのだとか、専務(♂)が巨乳にこっぴどく振られたのだとか、あることないことがまことしやかにネット上を飛び交ったりもした。

 禁断の愛そっちのけで、各方面で物議を醸しだした異色の乙女ゲームは、数カ月で販売中止となり、すぐさま世間に忘れられ去られていった。激安ソフトとして中古屋で山積みにされ、一部のコアなユーザーのみが愛好するいわくつきの乙女ゲームとなったのだ。


 よ り に も よ っ て な ぜ に こ の ゲ ー ム な の だ

 わたしがそう憤るのも仕方のないことだと理解してもらえただろうか。


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