寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 成人を迎えた誕生日に、リーゼロッテは初めてお酒を飲んだ。ダーミッシュの家族の前で酔っぱらったリーゼロッテは、誰彼かまわず抱きつき始めたのだ。

 ダーミッシュ夫妻をはじめ、義弟のルカ、家令のダニエルから料理長にいたるまで、その場にいたありとあらゆる人間に笑顔を振りまき、抱き着いてはその頬に口づけしまくった。その可愛さは悶絶級で、夜会などでこんな状態になったらといたく心配したフーゴによって、リーゼロッテは禁酒令を言い渡された。

 リーゼロッテはいつの間にかエラの膝枕ですやすやと眠っている。考え込むように、ジークヴァルトはその寝顔をじっとみつめていた。

「……旦那様。自室に連れ込んで、リーゼロッテ様に酒を飲ませようなど、不埒なことをお考えになっていないでしょうね?」

 その言葉にジークヴァルトはすいと顔をそらした。そらされた横顔に冷たい視線を送る。

「このマテアス、あえてお止めは致しませんが、リーゼロッテ様が正気に戻られた後に、嫌われる覚悟はしておいてくださいね」

 はっとしてマテアスを振り返る。やはりまるで後先を考えていなかった様子だ。リーゼロッテを前にすると、主の判断能力は三歳児以下となり下がる。

 迫りくる身の危険を知らぬまま、リーゼロッテの寝顔は限りなく平和そうだ。

 自分の憂いが晴れる日は、果たしていつやってくるのだろうか。こめかみに手を当てて、マテアスは大きくため息をついた。


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