寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 無言のまま、ジークヴァルトはジャケットを脱いだ。片膝をつき、それをリーゼロッテの肩にかけてくる。かまいたちで無残に乱れた姿を隠すように、ジャケットの前を合わせて包み込む。
 このままではいつものように抱き上げられてしまう。咄嗟に思ったリーゼロッテは、そうはさせまいと自力で立ち上がろうとした。

 その瞬間、ジークヴァルトは合わせたジャケットを掴んだまま、リーゼロッテを強く自身に引き寄せた。予想しなかった動きに、リーゼロッテは大きくバランスを崩す。
 そのままもたれかかるように見上げたその先で、リーゼロッテはジークヴァルトに唇をふさがれた。

 何がおきているのかまるで分らない。視点が合わないほど近くある顔に押されて、リーゼロッテはさらに上向かされた。

「ん……んんっ」

 身をよじろうにも、ジャケットで包まれたままの体は身動きすら取れない。(すそ)からはみ出した指先が、かろうじてジークヴァルトのシャツを小さく掴んだ。

 翻弄されるまま、ジークヴァルトはなおも口づけを深めてくる。苦しくて空気を求めて開いた唇に、ためらいもなく舌が差し込まれた。
 最大限に上向かされて、気づくと後頭部を押さえつけられている。中腰のまま中途半端に立ち上がった体が、再び地面に膝をつきそうになった。すかさず背中を支えられて、なすすべもなくリーゼロッテはその口づけを受け入れた。

 離されることなく角度を変えてくる唇に、意識を保てなくなる。ますます深くなる口づけに、あえぐように息を漏らした。

「あ……はっ」

 脱力したまま、ジークヴァルトに全身を預けた。もう何も考えられない。リーゼロッテの体から完全に力が抜けたところで、ジークヴァルトはようやくその唇にわずかな隙間を開けた。


「これでいいんだろう?」

 すれすれのままそう言って、名残(なごり)()しそうにリーゼロッテの下唇を、ジークヴァルトはもう一度だけちゅっと()んだ。






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