寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「だってあの態勢じゃ、普通は手にするって思うでしょう!? それをいきなり口にするなんて!」
「わたしは何も手にするとは言いませんでした。それに口づけと言ったら、本来口にするものです」

 ぶほっと咳込みそうになったリーゼロッテは、淑女の矜持(きょうじ)でなんとかそれを乗り切った。やっとの思いで口に含んだ紅茶を、静かにこくりと飲み下す。見るとカップを持った姿勢のまま、エラも固まって動かないでいた。

「わたしとの口づけはそんなにお嫌でしたか? それとも、ツェツィー様を怖がらせてしまいましたか?」
「こ、怖がってなどいないわ。わたくしを馬鹿にしないで!」
「でしたらもう一度、あなたに口づけてもかまいませんか?」
「なっ、駄目よ!」
「でも怖くはないのでしょう?」
「こ、怖くはないけれど、だって、そんな改めて言われたら……」
「そうですか……ツェツィー様はお恥ずかしいのですね」

 ぐいぐい迫っていたルカは、残念そうにツェツィーリアから身を離した。と見せかけて、ほっとしたところのツェツィーリアを強引に腕に引き寄せる。
 そのまま軽くキスをして、ちゅっちゅっとふたつ追加した。もう一度しようとしたところで、真っ赤になったツェツィーリアがその口を両手で塞ぎにかかる。

「だっ、だからなんてことするのよっ!!」
「前置きをされると恥ずかしいのでしょう? ですからこれからは、何も言わずにすることにします」

 満面の笑みでそう返され、赤い顔のまま口をぱくぱくさせる。

「る、る、る、ルカの馬鹿ぁ!!!」
 ルカの手を振り切って、ツェツィーリアは泣きながらサロンを飛び出した。

「義姉上、また後程。ツェツィー様、逃げないで!」
 きりりとした顔でそう言い残すと、嬉々としてツェツィーリアを追っていく。

 ふたりの背を唖然として見送った。きゅるるん小鬼がはしゃぎまわる中、リーゼロッテは涙目のままエラの顔を見る。

(い、今どきの若い子って……!)

 果たして、ルカたちが早いのか、自分たちが遅すぎるのか。


 そんなことがあったのは、ちょっと汗ばむくらいの、とある夏の午後のこと。この平和なティータイムも、やがては思い出になっていく。
 ひとつずつ、ひとつずつ。いろんなことを積み重ね、そして、いつか本当の家族になっていく。


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