寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
(でもヴァルト様っていつも唐突なのよね……)

 抱き上げるときも、膝に乗せるときも、あーんをするときも、そして、口づけてくるときも。

 先日の執務室での濃厚なキスを思い出し、思わず頬が赤らんだ。あの日我に返ると、執務室がとんでもない惨状と化していた。大修復が必要とのことで、おかげで特訓もずっとお預けとなっている。

 ふとしたときに、あの唇の感触を思い出してしまうから厄介だ。にやける口元をむにむにさせて、リーゼロッテは懸命に表情を整えた。淑女たるもの、簡単に動揺を表に出してはならない。それは子供の頃のマナー教師である、ロッテンマイヤーさんの教えだった。

 自分が力を使い果たしてしまうため、最近ではジークヴァルトが過剰に触れてくることもない。そのことがちょっとさみしいと思っている自分に、また頬を赤らめた。

(今でも信じられないわ……ヴァルト様の初恋がわたしだったなんて)

 初めからちゃんと口にしてくれたら、こんな遠回りをしないで済んだかもしれない。もっとも、ジークヴァルトへの恋心を自覚したのも、本当につい最近のことだ。

(人のことは言えないわね。でもこれからはルカたちのお手本にならないと)

 仲睦まじげに語らうふたりはきっとこれからだ。たくさん思い出を作っていって、一緒に大人になるのだろう。
 結婚したふたりが、ダーミッシュの屋敷で仲良く暮らす様子を頭に(えが)く。その未来はきっとちゃんとやってくる。そう思うと自然と口元がほころんだ。

 ぷいと顔を逸らすツェツィーリアに、ルカがなにやら話しかけている。愛おしそうにその手を握り、懸命にご機嫌を取っているようだ。

「ツェツィー様はもう、わたしの物です。絶対に誰にも渡しません」
「わたくしは物ではないわ」
「もちろんです、わたしの美しい人。……もしかしてツェツィーリア様は、あの時のことをまだ怒っていらっしゃるのですか?」
「当たり前よ。いきなりあんなことするなんて」
「ですが、きちんと許可はいただきました」

 なにやら痴話げんかをしている様子のふたりが、なんとも微笑ましく目に映る。盗み聞きするつもりはないが、この距離では嫌でも耳に入ってしまう。エラと目が合い、同じ思いでお互い目を細めた。
 それでもそしらぬふりをして、紅茶の香りを楽しみながら、リーゼロッテはカップにそっと口をつけた。

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