寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「ほぅら、ジークヴァルト。あれがラウエンシュタイン城だぞ」

 父親に連れられて向かった先は、龍の託宣により決められた婚約者の元だった。フーゲンベルクの屋敷を出て、もう三日ほどが経つ。初めての長旅に、ジークヴァルトはいつも以上に固まった表情で、馬車の窓から外を眺めていた。

「なんだ? 緊張してるのか? あの城は結界で包まれているらしいから、異形の者もいないと思うぞ? ああ、初めて会う託宣の相手が気になるんだな。可愛い()だったもんな。だが、肖像画はちょっと大げさに描いてあることもあるから、絵と違う()が出てきても驚くんじゃないぞ?」

 頭をぐりぐりとなでられながら、ジークヴァルトはただ頷き返した。父親とふたりきりで長く過ごすのも初めてのことだ。マテアスがそばにいないのも、なんだかおかしな感じがした。

 深い外堀がぐるりと囲むラウエンシュタイン城は、まるで湖の真ん中に建っているかように見えた。堀の中には(みどり)の水が(たた)えられ、時折枯れ葉がくるくると踊りながら(ゆる)やかに流されていく。
 堀の水は透明度が高く、底に敷かれた石の細部までも見通すことができた。浅そうでいて深そうにも感じる。吸い込まれるような不思議な感覚を、光の屈折はもたらしてきた。

 馬車から降り、その石造りの城を見上げた。城壁は高く、侵入者のすべてを拒むような物々しさだ。ぽんと頭に手を置かれ、隣に立つジークフリートに顔を向ける。

「ここからは歩きだ。あの城へは許された者しか入れない」

 いつになく硬い声音の父親に、ジークヴァルトは再び城へと視線を戻した。空を()くように、長い跳ね橋が城壁からゆっくりと降ろされていく。鎖の(きし)む音が、初秋の乾いた空気の中を重く響き渡った。
 ごうんと最後に音を立て、水平となった橋は動きを止めた。水が流れる涼やかな音色だけが、この場を静かに満たす。

「行こうか、ヴァルト。何、心配するな。ひと目見ればすぐ分かる。託宣の相手とはそういうもんだ」

 城へと一直線に伸びる跳ね橋を進み出したジークフリートの後ろを、ジークヴァルトも黙って続いた。

 堀の水面(みなも)が日差しを返し、進むごとに揺れる(みどり)が眩しく乱反射する。それと同時に包む空気が澄み切っていくのを、ジークヴァルトはつぶさに肌で感じ取っていた。

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