寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-

第4話 哀れみの匙

「気に入らないわね」

 あの日以来、ツェツィーリアは公爵家にずっと滞在している。というより、リーゼロッテにべったりとくっついて片時も離れないでいた。それこそ、食事から湯あみ、寝る時間に至るまで、ストーカーのごとく付きまとっている状態だ。

 しかし、ジークヴァルトが登城する際にリーゼロッテを連れて行くものの、その時ばかりはツェツィーリアは留守番をさせられている。そのことが不満で、先ほどからエラに突っかかっていた。

「どうしてリーゼロッテお姉様は連れて行ってもらえるのに、わたくしは置いてけぼりなのよ」
「そうおっしゃられましても、ツェツィーリア様はまだ社交界デビューもされていませんし、後見人でもいらっしゃらない公爵様が王城へお連れするのは難しいかと……」
「そんなことは分かっているわ。どうしてお姉様は許されるのかと聞いているのよ。ただ婚約者というだけでしょう?」
「お嬢様は公爵様の託宣のお相手でございますし、王にお許しもいただいているとのことですので」
「龍が決めたからって何よ、気に入らないわ」

 何をどう言ってもこの調子のツェツィーリアに、エラはほとほと困っていた。

 エントランス近くにあるこのサロンでリーゼロッテの帰りを待っていたら、侍女を連れたツェツィーリアがやってきた。しばらく話し相手をしていたのだが、これ幸いとばかりにお付きの侍女がいつの間にかいなくなってしまったのだ。

 このままツェツィーリアをひとりにするわけにもいかず、エラは辛抱強く会話を続けていた。ああ言えばこう言う子供の相手をするのは、なかなかに疲弊する。しかも子供と言えど、ツェツィーリアは上位貴族だ。気分を害さないようにと言葉選びも慎重にならざるを得なかった。

 クッキーの欠片をぽろぽろとこぼしまくるツェツィーリアを前に、弟妹たちが幼かった時の頃を思い出したエラは、思わずその口元をやさしくぬぐった。不敬と咎められるかとも思ったが、ツェツィーリアはエラの好きにさせている。

「ねえ、エラはずっとリーゼロッテお姉様の侍女をしているの?」
「はい、今までも、これからも、わたしはリーゼロッテ様の侍女でございます」
「……気に入らないわ」

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