寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 むっと唇を尖らせてから、ツェツィーリアは不機嫌なまま俯いてしまった。小さな手に握っていたクッキーがぽきりと割れて、ソファの上へと崩れていく。粉にまみれた手を、ツェツィーリアは力なく下へと降ろした。

 その手を開かせ、クッキーの欠片をきれいに拭っていく。されるがままになってはいるが、ツンと唇を尖らせてツェツィーリアの機嫌は斜めなままだ。

「ツェツィーリア様……不敬を承知で申し上げますが、淑女の作法をきちんとお身につけになりませんと、恥をおかきになるのはレルナー公爵家なのですよ」
「……あんな家、どう思われようと知ったことではないわ」

 ぽつりと言ったまま、ツェツィーリアはそのまま黙りこくった。小さな指でエラの手をぎゅっと握り返してくる。

「ツェツィーリア様……」

 公爵家の令嬢であるのにも関わらず、ツェツィーリアはぞんざいに扱われている。エラの目から見てもそれは明らかだった。お付きの侍女が理由もなく主人を放り出していくなど、常識ではあり得ないことだ。

 他家の問題など、エラに首を挟む義務も権利もない。そうは思うものの、何か言葉を探している自分に気づく。

(こういった時、リーゼロッテお嬢様ならどうなさるかしら……)

 以前の自分なら、自分や身内に火の粉が飛んでこないのならば、無関心を決め込んでいたことだろう。

「エラ様、お探ししましたよ。ああ、ツェツィーリア様もご一緒でしたか」
 ふいにサロンの入り口からマテアスが姿を現した。

「何よ、気に入らない言い方ね。わたくしがエラといてはいけないって言うの?」
「とんでもございません。わたしはただエラ様に、旦那様とリーゼロッテ様が間もなくお戻りなられると、お知らせしに参っただけでございますよ」
「それを早く言いなさい!」

 握っていたエラの手をぱっと離すと、ツェツィーリアは公爵令嬢らしからぬ動作で、廊下へと走っていった。

「何しているのよ、早く案内しなさい」

 振り返って焦れたように言う。命令し慣れているその姿は、幼くとも一端(いっぱし)の貴族だ。エラは促されるままマテアスと共に、ツェツィーリアを連れてエントランスへと急ぎ向かった。

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