影幻と陽光

クラス替え

「うそ……」

クラス発表の紙を握りしめ、思わず声を出した。

「どうしたの、流華?」

隣の滝沢阿胡が首を傾げる。

「……同じクラスに……」

紙に書かれた名前を指でなぞる。心臓が跳ねる。

阿胡が小さく息をのんだ。

「え、あの……あの人?」

教室を覗くと、そこにいた。

あの冷たい視線、鋭い目つき──神龍組の若頭、蓮舞。

しかも、クラスの前列に座っている。

私は慌てて背筋を伸ばし、深呼吸した。

「大丈夫、私……平常心、平常心……」

阿胡が私の手を握り、「一緒に行こう」と言った。

一歩ずつ、教室の中へ。

視線の端で蓮舞がこちらを見ているのを感じる。

胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

席に着くと、周りのざわめきが少しずつ落ち着く。

でも、あの目──蓮舞の目──は、確かに私を見つめていた。

やっぱり、学校での普通の生活なんて、幻想なのかもしれない。

今日の授業も、いつも通り平穏――のはずなのに、なんだか落ち着かない。

蓮舞の姿を見かけるたび、目が合う。けれど、話しかけてこない。

前と同じように、クールに、距離を置いている。

「……なんで?」

心の中で問いかける。

あの人、何か言いたいことがあるんじゃないかって、薄々わかるのに。

放課後、教室の外の廊下を歩いていると、由海の姿が見えた。
「流華、遅くなる前に行こう」

僕、と由海は言いながら、笑顔を向ける。

その笑顔に、少しだけ救われる気がした。


蓮舞は……今日も見えなかった。

でも、目の端にチラッと動いた影。

あの人が遠くからこちらを見ていることは、きっと間違いない。


私の胸は少しざわつきながらも、由海に引かれるまま、教室を後にした。

学校の外に出ると、夕陽が長い影を作る。

光と影。今日も、あの人と私の距離は変わらず、微妙に引き離されたままだ。
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