アパレル店員のお兄さんを【推し】にしてもいいですか?

知りたかった答え

 始業式。
(結局、夏休み中に滝さんに会うことはなかったなぁ。まぁ、あの推しと定期的に会えてた方が奇跡だったんだよね。関係が戻っただけの話)
 教室で担任が生徒に声をかける。
「来週の水曜日、委員会だからなぁー!委員は忘れず参加するように」
(委員会…矢田くん会うの久々だな)

 委員会の日、指定された教室に行くと、まだ矢田はいなかった。
 「久しぶり」
隣の席の椅子を引きながら矢田が声をかけた。
「久しぶり。あ、髪切ってる」
「うん、変かな?」
「全然。爽やかさに磨きがかかって良いよ」
「あはは、ありがとう」
 
 委員会終わり。
「あのさ、良かったら文化祭の自由時間一緒にまわらない?あ、友達と約束してたらそっち優先して」
「大丈夫だよ」
(多分、返事待ってるよね。正直、矢田くんを断る理由はない。だけど…)


 日曜日。
ポツポツ…ザァーッザァー
さゆかが出先から帰っていると、突然大雨が降ってきた。走りながら辺りを見渡す。
(うわぁー最悪っ。寄れそうなコンビニないし。あ、一旦あそこに)
屋根のあるバス停で雨を凌ぐことにした。
ゴロゴロ…
(雷まで鳴り始めた…どうしよう。早く止んでほしい)
下を向いて考えていると
「さゆかちゃん?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「?」
前を向くと、傘をさした滝がこちらに駆け寄ってきた。
「びしょ濡れじゃん!大丈夫!?風邪引くといけないし、うちで乾かそう。こっからすぐだから」
「え、あっ…」
言われるがまま一優の傘に入り、小走りで家へ向かった。

 アパートに着き「ちょっと待っててね」と滝が中に入り、ドアの前で待つさゆか。
(ええええ、推しの家!?待って待って、心の準備が…というか入っていいの!?こんなびしょ濡れで!?)
「お待たせ。入って」
「あ、いやでも濡れてるし」
「乾かすために来たんだから、ほら!」
戸惑いながら家に入る。
「ここの洗面所使って。あとこれ、俺ので申し訳ないんだけど着といて」
そう言ってタオルと着替えを渡す滝。
「ドライヤーはここね、使ったタオルはこの辺に置いといて。俺、奥のリビングいるから」
「あ、はい」
バタン
(なにこの状況ー。…ひとまず着替えよう)
滝のパーカーとハーフパンツを着る。
(服まで良い匂いするんだけど)
ドライヤーで髪を乾かしながら考えるさゆか。
(一優さん普通だったけど、あのキスなかったことになってるのかな…偶然とはいえ会えたからにはちゃんとハッキリしたいけど)

 ドライヤーを終え、リビングに行った。
ガチャ
「大丈夫だった?」
「はい、服とか色々ありがとうございました」
「いえいえ。服乾かす?ビニール袋入れて持って帰る?」
「持って帰ります。借りた服は洗濯してお返しします」
「了解。まだ雨激しいね。雷も鳴ってるし、もう少し弱まってから帰った方がいいよ、傘貸すし」
「何から何までありがとうございます」
「あ、飲み物何がいい?紅茶かオレンジジュースか水か」
「…ジュースで」
どこに座ればいいか分からず、カーペットの隅にちょこんと座った。
「ぶはっ。借りてきた猫みたいになってるじゃん!ソファ座りなよ」
飲み物を持ってきた滝に笑われ、ソファの端に座りなおした。滝もソファに座る。
「いただきます」
コップを口にする。
「……。」
(何話せばいいんだろ。というか部屋がおしゃれ過ぎてなんか落ち着かない。私の推しはどこまでおしゃれなの!?たまたまかもだけど、テレビ付けずに音楽流してる感じもなんか良き!
ってそんな呑気なこと考えてる場合じゃない。
聞かないと…)
「あの、滝さん」
「ん?」
「…その…誕生日、なんで…キスしたんですか?」
滝をまっすぐ見つめ聞く。
「うーん、あまりに浴衣姿が可愛かったから?」
誤魔化す滝の答えに不満そうな顔をする。
「ごめん、嘘。…花火は一緒に見たかったし、誕生日は一瞬でも会いたかったけど、抱きしめた日にさゆかちゃんが走り逃げたから嫌われたと思って誘えなかった。でも、さゆかちゃんが他の人と来てるの見かけてすごく嫌だったんだよね」
(あ、矢田くんといたの見られてたんだ)
「許可なくキスしたのは謝る、ごめんね」
「…謝らなくていいです。走り逃げたのは、ごめんなさい。恥ずかしかったというか…パニックになってしまって、だから嫌だったわけじゃないです。キスだって…嬉しかったし…」
ボソッと本音を言うさゆか。
「じゃあ、嫌いになってないの?」
「嫌いになりませんよ…。ただ、付き合ってないのにハグとかキスされたら戸惑うし、何でしたんだろって考えちゃいます…」
困り顔で頬を赤くするさゆか。
「ねぇ、抱きしめてもいい?」
「いや、今の話聞いてました!?だからっ…」
ぎゅっ
話を遮り、さゆかを抱きしめた滝。
「ハグもキスも彼氏ならいいってことだよね?」
そう言い、さゆかのおでこにキスをした。
驚くさゆか。
「好きだよ。俺の彼女になってほしい」
今度は唇にキスをした。
(いま、何て…?え、キス…)
フリーズするさゆかに再度伝える。
「聞こえてる?…好きです。俺の彼女になってくれますか?」
涙ぐみながらさゆかは返事をする。
「…はい。よろしくおねがいします…」
滝は微笑んで、さゆかを抱きしめながら「なんか夢みたい」と呟いた。
(滝さんが私のことを好き…どうしよう、夢なら醒めてほしくない)
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