アパレル店員のお兄さんを【推し】にしてもいいですか?

隠せない

 (ついに、憧れの推しと付き合うことに!)
朝起きて一優からの連絡を確認する。
『おはよう』
画面を見てニヤつくさゆか。
(付き合ってから毎日おはようとおやすみの連絡をくれる。日常のちょっとした出来事も報告してくれるようになり、自分は彼女なんだと浮かれてしまう)

 昼休み、麻由と友美に報告をした。
「きゃーおめでとう〜!!」
「長かったねぇ。ほんと長かった」
「ただ、彼の立場上、高校生と付き合ってるのはよくないみたいで…。彼氏いるのは他の人には言わないで」
手を合わせてお願いするさゆか。
「大人も大変だねぇ。了解、ここだけの秘密だね」
「ありがとう〜」
「でもさ、矢田くんはどうすんの?文化祭一緒にまわる約束したんでしょ?」
「…」


 (今日は付き合って初めてのデート。2人で出かけたことはあるけど、やっぱり恋人としてデートできるのは別格の喜び)
「お待たせ」
(ずきゅん!今日も安定でおしゃれイケメン。あー自慢したい。この人、私の彼氏ですって)
「じゃあ、行こっか」
自然とさゆかの手を握り、歩き出す。
(きゅん。あの推しと普通に手を繋いでるぅ。やばい、すでに心臓がもたない)
 「ねぇ、付き合ったし敬語やめない?」
「すみません、それはまだ無理です」
照れながら顔を横に振るさゆか。
「残念。ちょっとずつ練習してね?それと、これからはさゆかって呼んでもいい?」
「もちろんです」
「じゃあ、俺のことも下の名前で呼んで」
「え、それは…」
子犬のような目でさゆかを見つめる一優。
「い、一優さん…」
顔を赤くする。
「よくできましたっ」
ニコッと笑って、さゆかのおでこを人差し指でポンと押した。
(子供扱いされてるのに…それすら嬉しい)
「そうだ、アプリする?」
「ん?何のアプリですか?」
「カップルアプリみたいなやつ。女の子はしたいのかなって」
「すみません。浮かれすぎてて、そんなの頭になかったです。したいです!」
「どれがいいかは、さゆかが決めてもらっていい?」
(呼び捨て…たまらん)
「分かりました!」
「スケジュール入れるけどさ、無理に休みに予定合わせたりしなくて良いからね?友達や学校のこと優先して、今まで通りお互い負担なく会えたら良いなって」
「ありがとうございます。いっ…一優さんもお仕事優先でお願いしまね!」
「ありがと。あと、仕事柄どうしてもスタッフやお客様の女性と関わる機会多いじゃん?不安にさせることあるかもだけど、何か気になる時や不安な時は遠慮なく言ってほしい。言わなくて、すれ違いや勘違いが生まれるの嫌だから」
(じーん。なんか色々考えてくれてる…嬉しい)
 「そういえば、今月最後の土日って文化祭?」
「はい、そうです」
「土曜なら空いてるんだけど、今年も駒井誘って行ってもいい?」
「もちろんです!今年は模擬店するのでぜひ!あ…でも」
「…?どうかした?」
「あの、非常に申し上げにくいんですが…他のクラスの男子と自由時間一緒にまわることになってて…。それは付き合う前に決まってて」
「そっかぁ。まぁ、そもそも俺と付き合ってるの内緒だから一緒にまわれないもんね。でも、文化祭楽しかったし駒井と行くよ。…で、問題はその男子…もしかして花火大会の子?」
一優の言葉に焦るさゆか。
(鋭い…)
「…はい。今さら断る理由が見つからなくて、前に好きな人もいないと伝えてしまっていて…」
「うーん…今から断る方が失礼だし、まわった方がいいと思う」
「…はい」
(付き合ったらヤキモチ妬くタイプじゃないのかな)

 文化祭初日。
(クラスの男子達が韓国アイドルにハマっている理由で、模擬店は韓国スイーツの店になった)
賑わう校内。
「いらっしゃいませー」
さゆかが模擬店の前で呼び込みをしていると
「お久しぶりでーす!」と声をかけられた。
一優と駒井がいた。
「あ、駒井さん!今年も来てくれてありがとうございます」
(駒井さんは、私たちが付き合っていることは知らない。妹ポジションだと思っているままだ)
「その衣装?可愛いっすね!」
「ありがとうございます!韓国風の制服なんです。この制服着てる女子は、うちのクラスの子なのでナンパしたらいけませんからね!」
「そんなことしないっすよー」
 列に並び、買い終えた一優たちは他の場所へ行くため移動し始めた。その様子を見ていると一優が1人さゆかの元へ戻ってきた。
(??)
「あの子と回るのこの後だよね?」
「…はい」
「その格好でだよね?」
「え?今日は1日この制服ですよ?」
「…」
天を見上げ、何か考えているような一優。
「ごめん、なんでもない。じゃあ、他もまわってくるね」
(…?何だったんだろうか)

 呼び込みを終え、渡り廊下で矢田を待つさゆか。
「白井さん、お疲れ!」
クラスで作ったオリジナルパーカーを着た矢田がやってきた。
「そのパーカー良いよね。友美がめっちゃ自慢してきてた」
「ありがとう。みんなで話し合って決めたからね。白井さんの制服も可愛いね。髪型もいつもと雰囲気違って新鮮」
「男子の熱望でこの制服になったの。髪型は韓国っぽく女子同士でセットし合ったんだ」
 横に並んで歩き出すさゆかと矢田。周りの生徒達が2人を見てざわつく。
(ヤバい、忘れていた。矢田くんが学校1のモテ男子だということを!そんな人と2人で文化祭まわってたら目立つに決まってるじゃん!なんかヒソヒソ言われてるし。体育祭の時の比じゃないー)
身の危険を感じ、少し距離を開けるさゆか。それに気づいてなのか「あ、あのジュース飲まない?」と模擬店のドリンク屋を指差し、さゆかのすぐ横にきた矢田。

 一優は校舎に入り、3階にいた。
「ちょっとお手洗い行ってきます」
駒井を廊下で待っていると、前から来た女子2人が、窓のそばで何かに気づき騒ぎ始めた。
「あ、あれ矢田先輩じゃない!?」
「ほんとだ!今日もかっこいいぃ!」
「でも女子といるよー。彼女かなぁ、ショックー」
会話を聞いて、一優が何気なく窓から下を見ると、そこにいたのはさゆかと矢田だった。
「そういえばこの前、菜々子が矢田先輩に告白したら、好きな人いるからって断られたらしいよ」
「じゃあ、あの人がそうなのかな!?文化祭で毎年カップルが誕生するって先輩が言ってたし」
2人の様子を眺める一優。
「…」
駒井が戻ってきた。
「お待たせしました。次どこ行きます?」

 校舎裏で話しているさゆかと矢田。
「矢田くん…あのね、返事をしたくて」
「…うん」
「…矢田くんとはこれからも友達でいたい…です。一緒に遊んで、矢田くんの良さはもっと知れたの。でも、ごめんなさい。私、好きな人がいて…だから付き合うことはできない」
「…そんな気がしてた。ちゃんと振ってくれてありがとう。これからも友達としてよろしく」
(最後まで優しい…なんだか心が痛む)

 矢田と別れ、麻由の元へ向かう途中
「さゆか」
後ろに一優がいた。
「わぁ、びっくりした。駒井さんは?」
「今年もお化け屋敷に行ってる」
「あはは、1人で行くとこが駒井さんっぽい」
「だね。…ちょっとだけ時間いい?」
 人気のない階段に着いた。
(どうしたんだろう)
ぎゅっ。突然一優がさゆかを抱きしめた。
(ええええええ!?)
「…っ!?一優さん!?」
「もしかして、あの子に告白された?」
(え…今日されたわけじゃないけど…)
「あ…好きな人いるって伝えました。もう2人で会うことはないです…」
「…」
(あれ、ノーリアクション?)
「あぁー、良かったぁー」
一優がその場にしゃがんだ。
(え…)
「まわればいいって自分で言っときながらさ…」
さゆかの手を握り、顔を見上げた。
「こんな可愛い彼女、行かせるの間違ってた」
ドクンッ
さゆかもしゃがむ。
「…どうしよう、ニヤけちゃいます」
さゆかの照れ隠しの言葉に笑い、軽くキスをした。
「どこまで可愛いの。あー、好きじゃ足りないくらい好きっ」
そう言って笑顔を見せる一優。
(こんな子供っぽいとこ初めて見た)
「年上だし、どっかカッコつけてたんだけど。もう遠慮なくいこうかな」
「え?」
「俺、かなり独占欲強いよ?」
ニヤリ顔でさゆかを見る一優。
ドキッ
(まだまだ知らないことがある。知るたびに好きになる。やっぱり私の推しは最高だ)
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