アパレル店員のお兄さんを【推し】にしてもいいですか?
憧れの人
三が日も終わり、少し落ち着いた頃。店頭で服を畳んでいる一優。
「滝くん!」
名前を呼ばれて振り返ると女性が立っていた。
「…早川さん。お久しぶりです」
「久しぶり。来期からエリアマネージャーになるの。今月だけここのエリアを研修も兼ねてみさせてもらうね」
「そうだったんですね。よろしくおねがいします」
「店長って、マネージャーと初めましてですか?」
早川が帰った後に店舗裏で駒井が尋ねた。
「いや、俺が新卒で入った店舗で店長だった人」
「それ、むちゃくちゃお世話になった人じゃないですか!」
「お世話に…そうだね」
意味深な顔をする一優。
「ごめん、さゆか」
「?」
新年最初のデートである初詣に向かう途中。
「来月のさゆかの誕生日、泊まりの出張が入ってしまって…。当日お祝いしたかったのに本当にごめん」
「お仕事だから仕方ないですよ!」
「…ありがとう」
神社に着き、お参りをする2人。
(学業のお願いはこの前したし…)
隣でお願いをする一優を横目で見た。
(一優さんと平穏に仲良く過ごせますように)
「あ、まだ露店やってるね」
「ほんとだ。ベビーカステラが食べたいなぁ。一優さん何食べたいですか?」
「唐揚げとかフランクフルトにしようかな。一緒に食べよ」
神社を出ようとしていた時、すれ違った女性がさゆかに気付いた。
「白井?」
「…えっ、亜美先輩!?」
「久しぶりだね。元気してる?」
「お久しぶりです。毎日楽しく過ごしてます」
「ふふっ、白井らしいね。ごめんね、引き留めて。じゃあ、また」
「いえ、会えて嬉しかったです。失礼します」
後ろ姿を名残惜しそうに見るさゆか。
「知り合い?」
「中学の先輩です。生徒会長してた人で、才色兼備で性格もカッコよくて、全女子の憧れでした。たまたま行事で関わった時があって、名前を知ってくれたんです」
「そうなんだ。見た感じしっかりしてそうな人だったもんね」
「亜美先輩の統率力は凄かったです。女子だけどヤンチャな男子になめられることもなくて。一優さんは憧れの人とかいました?」
「うーん、社会人になって憧れた人はいたかな。すごく仕事が出来る人で、みんなから慕われてて…」
滝が新卒で入社した頃。
「朝のミーティング始めます。まず始めに新スタッフの紹介をします。今日からこの店舗で一緒に働くことになった新卒の滝くんです。では、一言お願いします」
「滝一優です。即戦力になれるよう頑張ります。どうぞよろしくお願いします」
パチパチパチ
「滝くんの教育係は私が担当するけど、みんなでサポートしていきましょう!」
その後は、店長業務をこなしながら滝のサポートをする日々の早川。
入社から数ヶ月後。店舗裏でパソコン業務を行う早川と少し離れた席で休憩する一優。
トトトトトッ
「早川さん」
「んー?」
「その人差し指と中指を高速で動かすの癖ですか?」
「え」
自分の指を見る早川。
「うわ、気づかなかった。完全に無意識だわ」
「特に困った時とか焦った時にしてますよ」
「え!?知らなかったー、恥ずかし。それにしてもよく気付いたね」
「そりゃあ、よく見てるんで早川さんのこと」
ドキッとする早川。
初詣から数日後の休み時間。
「さゆさゆー、金曜の放課後何人かで夜までカラオケ行かない?」
(金曜って一優さん新年会だったよね。お母さんも夜はいないし)
「いいよー」
金曜日。仕事終わりに新年会が行われ、早川も参加していた。酔ったスタッフの1人が早川に絡んでいた。
「マネージャーって彼氏いるんですかぁ?」
「残念ながらいないの」
「えーこんな美人なのに!?もったいないー。店長もモテるのに相手いないし…」
「え、滝くんいないの?」
早川が驚きながら聞く。
「…いませんよ」
「そっか…」
会が盛り上がる中、早川をチラッと見た一優。
「ごめん、俺そろそろ帰るね」
「えー、今日帰るの早いっすね」
「明日早番だし、ちょっと家でしたいことあって。早川さんも帰りますよね?」
「えっ、あー…うん」
ぽーっとしながら返事をする。
駅近くのカラオケで遊んでいたさゆかは、友達と帰っているところだった。
「寒いねー」
「コンビニであったかいもの買おうかな」
ふと立ち止まる。
(あれ、あそこにいるの一優さん?)
視線の先には、お店から出てきた一優と早川がいた。次の瞬間、ふらつく早川が一優の腕を掴んだ。
(え…)
その手を振り払うことなく進み出す一優。
(どういうこと…)
人混みに消えて行く2人を見るさゆか。
「さゆか?どした?」
「あ、ううん。何でもない」
(今日スタッフみんなで新年会って言ってたよね。まだこの時間だし、解散してないはず。2人で抜け出したってこと?それとも元々2人なのかな…。一瞬しか顔見えなかったけど、綺麗な人だったな…)
「何で弱いのにあんなに飲んだんですか」
「反省してます…。ごめんね、滝くんまで帰らせることになって」
「昔もあったんで大丈夫です」
「あはは、そんなことあったねぇ」
社会人1年目の冬。仕事終わりに飲み会をしていた一優や早川たち。1時間ほど経った頃、サブのスタッフが慌て出す。
「えっ!早川さん飲み過ぎですよ!」
一優がきょとんとしているのに気付き説明する。
「早川さんお酒弱いんだよ。少しならいいけど、飲み過ぎるとすぐフラフラになる。前にそのへんの知らない人におんぶされて帰った時もあるし」
「確かにいつもあんま飲んでないですよね」
「滝!お前、早川さん家まで送れ!」
「え!?」
店から出ると少し雪がちらついていた。ふらふらと歩き始める早川。
「ちょっ、早川さん!人にぶつかりますよ」
早川の肩を抱くように支えた一優。
「ひとりで大丈夫よー」
「全然大丈夫そうじゃないんですけど。家、こっちですか?」
「うん…」
早川のアパート近くに着いた。
「すぐそこだから、ここで大丈夫。寒い中ほんとありがとうねー」
「いえ。今度から飲み過ぎないよう気をつけてくださいね」
「…。」
「…?どうかしました?気分悪いですか?」
「せっかくみんなが頑張ってくれてるのに…下期の売上達成できなかった…。私が不甲斐ないから…悔しいっ」
うつむきながら涙を浮かべる早川。
スッ
一優が涙を拭くように頬に手を添えた。驚き、顔を上げる早川。
「早川さんが誰よりも頑張ってるの、みんな知ってますよ。早川さんが店長だから良いチームワークで働けてます。来期は必ず達成できるよう俺たちも今以上に頑張ります」
「滝くん…」
ぎゅっ
早川が一優に抱きついた。
「ごめん…今だけ…」
そっと抱きしめる一優。
「滝くん!」
名前を呼ばれて振り返ると女性が立っていた。
「…早川さん。お久しぶりです」
「久しぶり。来期からエリアマネージャーになるの。今月だけここのエリアを研修も兼ねてみさせてもらうね」
「そうだったんですね。よろしくおねがいします」
「店長って、マネージャーと初めましてですか?」
早川が帰った後に店舗裏で駒井が尋ねた。
「いや、俺が新卒で入った店舗で店長だった人」
「それ、むちゃくちゃお世話になった人じゃないですか!」
「お世話に…そうだね」
意味深な顔をする一優。
「ごめん、さゆか」
「?」
新年最初のデートである初詣に向かう途中。
「来月のさゆかの誕生日、泊まりの出張が入ってしまって…。当日お祝いしたかったのに本当にごめん」
「お仕事だから仕方ないですよ!」
「…ありがとう」
神社に着き、お参りをする2人。
(学業のお願いはこの前したし…)
隣でお願いをする一優を横目で見た。
(一優さんと平穏に仲良く過ごせますように)
「あ、まだ露店やってるね」
「ほんとだ。ベビーカステラが食べたいなぁ。一優さん何食べたいですか?」
「唐揚げとかフランクフルトにしようかな。一緒に食べよ」
神社を出ようとしていた時、すれ違った女性がさゆかに気付いた。
「白井?」
「…えっ、亜美先輩!?」
「久しぶりだね。元気してる?」
「お久しぶりです。毎日楽しく過ごしてます」
「ふふっ、白井らしいね。ごめんね、引き留めて。じゃあ、また」
「いえ、会えて嬉しかったです。失礼します」
後ろ姿を名残惜しそうに見るさゆか。
「知り合い?」
「中学の先輩です。生徒会長してた人で、才色兼備で性格もカッコよくて、全女子の憧れでした。たまたま行事で関わった時があって、名前を知ってくれたんです」
「そうなんだ。見た感じしっかりしてそうな人だったもんね」
「亜美先輩の統率力は凄かったです。女子だけどヤンチャな男子になめられることもなくて。一優さんは憧れの人とかいました?」
「うーん、社会人になって憧れた人はいたかな。すごく仕事が出来る人で、みんなから慕われてて…」
滝が新卒で入社した頃。
「朝のミーティング始めます。まず始めに新スタッフの紹介をします。今日からこの店舗で一緒に働くことになった新卒の滝くんです。では、一言お願いします」
「滝一優です。即戦力になれるよう頑張ります。どうぞよろしくお願いします」
パチパチパチ
「滝くんの教育係は私が担当するけど、みんなでサポートしていきましょう!」
その後は、店長業務をこなしながら滝のサポートをする日々の早川。
入社から数ヶ月後。店舗裏でパソコン業務を行う早川と少し離れた席で休憩する一優。
トトトトトッ
「早川さん」
「んー?」
「その人差し指と中指を高速で動かすの癖ですか?」
「え」
自分の指を見る早川。
「うわ、気づかなかった。完全に無意識だわ」
「特に困った時とか焦った時にしてますよ」
「え!?知らなかったー、恥ずかし。それにしてもよく気付いたね」
「そりゃあ、よく見てるんで早川さんのこと」
ドキッとする早川。
初詣から数日後の休み時間。
「さゆさゆー、金曜の放課後何人かで夜までカラオケ行かない?」
(金曜って一優さん新年会だったよね。お母さんも夜はいないし)
「いいよー」
金曜日。仕事終わりに新年会が行われ、早川も参加していた。酔ったスタッフの1人が早川に絡んでいた。
「マネージャーって彼氏いるんですかぁ?」
「残念ながらいないの」
「えーこんな美人なのに!?もったいないー。店長もモテるのに相手いないし…」
「え、滝くんいないの?」
早川が驚きながら聞く。
「…いませんよ」
「そっか…」
会が盛り上がる中、早川をチラッと見た一優。
「ごめん、俺そろそろ帰るね」
「えー、今日帰るの早いっすね」
「明日早番だし、ちょっと家でしたいことあって。早川さんも帰りますよね?」
「えっ、あー…うん」
ぽーっとしながら返事をする。
駅近くのカラオケで遊んでいたさゆかは、友達と帰っているところだった。
「寒いねー」
「コンビニであったかいもの買おうかな」
ふと立ち止まる。
(あれ、あそこにいるの一優さん?)
視線の先には、お店から出てきた一優と早川がいた。次の瞬間、ふらつく早川が一優の腕を掴んだ。
(え…)
その手を振り払うことなく進み出す一優。
(どういうこと…)
人混みに消えて行く2人を見るさゆか。
「さゆか?どした?」
「あ、ううん。何でもない」
(今日スタッフみんなで新年会って言ってたよね。まだこの時間だし、解散してないはず。2人で抜け出したってこと?それとも元々2人なのかな…。一瞬しか顔見えなかったけど、綺麗な人だったな…)
「何で弱いのにあんなに飲んだんですか」
「反省してます…。ごめんね、滝くんまで帰らせることになって」
「昔もあったんで大丈夫です」
「あはは、そんなことあったねぇ」
社会人1年目の冬。仕事終わりに飲み会をしていた一優や早川たち。1時間ほど経った頃、サブのスタッフが慌て出す。
「えっ!早川さん飲み過ぎですよ!」
一優がきょとんとしているのに気付き説明する。
「早川さんお酒弱いんだよ。少しならいいけど、飲み過ぎるとすぐフラフラになる。前にそのへんの知らない人におんぶされて帰った時もあるし」
「確かにいつもあんま飲んでないですよね」
「滝!お前、早川さん家まで送れ!」
「え!?」
店から出ると少し雪がちらついていた。ふらふらと歩き始める早川。
「ちょっ、早川さん!人にぶつかりますよ」
早川の肩を抱くように支えた一優。
「ひとりで大丈夫よー」
「全然大丈夫そうじゃないんですけど。家、こっちですか?」
「うん…」
早川のアパート近くに着いた。
「すぐそこだから、ここで大丈夫。寒い中ほんとありがとうねー」
「いえ。今度から飲み過ぎないよう気をつけてくださいね」
「…。」
「…?どうかしました?気分悪いですか?」
「せっかくみんなが頑張ってくれてるのに…下期の売上達成できなかった…。私が不甲斐ないから…悔しいっ」
うつむきながら涙を浮かべる早川。
スッ
一優が涙を拭くように頬に手を添えた。驚き、顔を上げる早川。
「早川さんが誰よりも頑張ってるの、みんな知ってますよ。早川さんが店長だから良いチームワークで働けてます。来期は必ず達成できるよう俺たちも今以上に頑張ります」
「滝くん…」
ぎゅっ
早川が一優に抱きついた。
「ごめん…今だけ…」
そっと抱きしめる一優。