アパレル店員のお兄さんを【推し】にしてもいいですか?

君に魅せられて

 5月。キーンコーンカーンコーン…
「やっとテスト終わったぁー!」
「数学、今回むずくなかった?」
「赤点免れたらもうそれでいい!」
「テスト終わったし、明日から練習の日々が始まるね。束の間のリフレッシュ、友美誘ってゲーセンでも行く?」
「パス!今日推し活だから!テスト明けのご褒美タイムですよ」
うっとりするさゆかを呆れ顔で見る麻由。

 「じゃあ、また明日ねー」
「ばいばーい」
さゆかと別れ、麻由が歩いていると
「まーゆー!」
友美が駆け寄ってきた。
「さゆか、もう帰った?」
「うん、今日推しに会うらしい。なんかあった?」
「うちのクラスの玉木ってやつが、さゆかの連絡先知りたいらしくて」
「教えても意味ない結果に終わるだろうね。さゆかってさ、結構モテるのに推しに夢中で、本人がそのことに気づいてないよねぇ」
「ほんとそれ。1年の時からさゆか狙いいたけど、見向きもしなかったし」

 「テストお疲れ様」
「ありがとうございます」
ファミレスでお昼ご飯を食べている2人。
「やっとゆっくりできるから良かったね」
「それがそうでもなくて。今月、体育祭があるんですよ。うちの学校、基本的に行事に力入れてるので、明日から放課後は競技や応援の練習するんですよ」
「すごいね。あ、終わったら体育祭の写真送ってよ」
「え!?体操服着てるだけですよ?」
「レアじゃん。待ってるね、写真」
 少し経つと、滝の顔をじっと見るさゆか。
「滝さん」
「ん?」
「もしかして、体調悪いですか?」
「え…よく分かったね。ちょっと頭痛くなってきて」
カバンの中からものを取り出すさゆか。
「頭痛薬飲んでください。これ食べ終えたら帰りましょう。家でゆっくり休んでください」
「わぁ、ありがとう。すぐ帰ることになってごめんね」
「健康第一ですよ」
笑顔で言うさゆかに、安心感を覚える滝。


 選手宣誓で幕を開けた体育祭。綱引きや二人三脚など様々な競技が行われる。
 前半最後にメインイベントの1つ応援合戦が始まった。3学年が1組から5組で分かれチームになり、主にダンスで応援を披露し競う。得点は先生と体育委員が決める。
 2組の出番がきた。円陣を組み、3年の応援団長が掛け声をかける。
「俺らの可愛いさとかっこよさ見せつけるぜぇーーーー!!」
「「おおぉーーーー!!!」」
2組が登場すると盛り上がるグラウンド。男子はチアリーダー姿、女子は学ランを羽織り、はちまき姿で現れた。曲が流れ、ノリノリで踊る菅たち。応援席にいる矢田は、笑顔で踊るさゆかを見て頬を赤くし「やば…」と思わず呟いた。
 最後は5組の応援が始まった。白Tシャツにデニムで揃えた衣装。矢田のカジュアルで爽やかな姿にファンの子たちは悶絶していた。
(なんか、写真部も矢田くんばっかり撮ってるような…)

 借り物競走2年の部が始まった。選手が入場すると女子の大歓声が聞こえ、さゆかが何かと思い見ると矢田がいた。
(矢田くん借り物競走に出るんだ。意外)
麻由が隣から話しかける。
「部対抗リレーに出るから、クラスのは平凡なのにしたって、友美が言ってたよ。あの子体育委員だから。活躍されまくったらファンたちが失神するからって」
 お題を引き、それぞれ確認をして走り出した。
「真野、何引いたんだろ。なんかめちゃくちゃあたふたしてるけど」
「難題に当たったんじゃない!?」
笑いながら楽しんでいると、向こうから2組の応援席に向かって矢田が走ってきた。
「え、なんか矢田くんこっちに来てない?」
「ほんとだ…」
すると、さゆかの前に立ち止まり
「白井さんっ!一緒に来てもらっても良い!?」
手を差し出した。
「え、あ、え…!?」
戸惑いながらも手を繋ぎ、ゴールに連れられて行く。
(ちょっとー!ファンの子たちの視線が痛いんですけどー!?え、なんで私!?)
 無事ゴールに着くと、お題確認のため矢田が白い紙を係に渡す。
「お題は『ポニーテールの人』でした!2年5組矢田くん合格です!」
(あ、ポニーテールね…)
手を繋いだままなことに気づいた矢田。
「あ、ごめん」
パッと離し、髪をかきながら顔を赤くする。

 「最終種目は部対抗リレーです!運動部門は、野球部、サッカー部、バスケ部、バレー部、剣道部、柔道部。文化部門は、美術部、吹奏楽部、生徒会執行部、ゲーム研究部、囲碁将棋部です。ユニフォームなどで走る姿にぜひご注目ください!」
 文化部のリレーが行われた後、運動部の選手たちが入場した。ユニフォーム姿で現れた菅は、列の1番後ろにいた。
「え、菅アンカーじゃない!?」
「2年でアンカーなの菅だけじゃん!」
第一走者が並び、ピストルの音がグラウンドに鳴り響いた。
パンッ。
一斉に勢いよく走り出す選手たち。バトンが次々と渡り、応援もヒートアップしていく。そして、4番走者の矢田の登場で女子の声援がより大きくなった。
「矢田くん速っ!野球部に追いつきそうだよ」
サッカー部、野球部、バスケ部の順でアンカーの菅にバトンが繋がれた。走り出した菅は、瞬く間に野球部とサッカー部を追い抜き、そのままゴールテープを切った。菅の姿にバスケ部や2組だけでなく、グラウンドの全員がその日1番の大歓声を上げた。
「ヤバかったね、菅」
「あいつの運動神経の良さは神だな」
「あの活躍で菅にもファンができるといいね」
 閉会式後、迷いながらも友達と撮った写真を一優に送った。

 仕事終わりにスマホを見ると、さゆかから連絡が入っていた。開くと
『無事終わりました!2組総合優勝です!』
文とともに学ラン姿で映るさゆかたちの写真が添付されていた。一瞬驚いた顔をして、指でさゆかの顔をアップにする滝。
 (あ、滝さんから返信)
『お疲れ様
優勝おめでとう!
学ランかっこいいじゃん』
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