アパレル店員のお兄さんを【推し】にしてもいいですか?

舞う心

 (待ちに待った春休み。なんと!今日は推しとお花見。誘ってみて良かったー。楽しみ過ぎて早く着いちゃった)
待ち合わせ場所でそわそわしながら待つさゆか。
「おねぇさん、ひとりー?」
「暇ならあそぼー」
明らかにチャラそうな男性2人組が声をかけてきた。
(うわ、ナンパだ)
「すみません、人と待ち合わせしてるので…」
「何歳なのー?」
(うぅ、聞いてない…)
「じゃあさ、今から来る子も一緒に遊べば…」
ぽんっ
後ろから来た一優がさゆかの頭に手をおき
「この子、俺と約束してるから」
牽制するような笑顔で言うと男2人はそそくさと去っていった。
「あ、ありがとうございました」
「全然。待たせたせいで嫌な思いさせてごめんね?」
「いえ、私が早く来ただけなので」
チラッ
改めて見ると一優は、デニムジャケットを着ていた。さゆかはオーバーサイズのデニムジャケットを着ている。
「あ、デニム被ったね。春はデニム着たくなるよねぇ」
「すみません、リンクコーデみたいになって」
「なんで謝るの。オソロっぽいの俺は嬉しいよ」
(うっ、開始数分でときめき殺される)
「それにオーバーサイズの感じ、すごく似合ってる」
(キュン死。今日生きて帰れるのか)

 カフェに寄り、花見に向かう途中。街頭に貼られたポスターを見たさゆか。
「あ、新しいアルバム出てる」
「そのアイドルグループ、今人気だよね」
「友達がハマってて、6月のライブに付き添いで行くことになったんです。今、PV見たりして予習中です」
「そうなんだ、どの人が推しとかあるの?」
ポスターを指差しながら
「友達はこのリーダーの人で、私は最年少の賢真くんかなぁ。ファンの間ではケンケンって
呼ばれてるらしいんですけど。こんな可愛い顔してるのに、ダンスの時キレッキレでかっこいいんです」
楽しそうに話すさゆか。
「滝さんって、好きな芸能人とかいないんですか?」
「うーん、あんま詳しくないんだよね」
「じゃあ、好みとかないんですか?」
「好みは特にないかなぁ。けど、GWや年末年始とかは基本仕事で、会えても仕事終わりとかになるから、あんまりイベントごと楽しめないんだよ。だから、休みが合う職種の方が良いのかなって思うことはあるよね」
「…。」
(あれれ、これって遠回しに土日休みの学生は合わないって言ってる?いや、別にいいんだけどね、恋愛じゃないし…)

 河川敷に着いた。
「あ、ここですここです。こんなに大きな桜があるのに意外と知られてない穴場スポットなんですよぉ」
さゆかは持って来たレジャーシートを敷いた。
 カフェでテイクアウトしたサンドイッチを食べなら話す2人。
「友達とお花見行かなくてよかったの?」
「あ、昨日行きましたよ!3月の誕生日会も兼ねて、クラスのみんなで夜桜を楽しみました」
「ほんと仲良いクラスだね」
「そうなんです。だからクラス替えが寂しくて
帰り際みんな大号泣で…」

 食べ終え、まったりしていると
「ふぅーお腹いっぱい。眠くなるなぁ」
シートの上に寝転んで目を閉じた滝。
(!?寝顔…!こんなレアショットを見られる日が来るなんて…感動!写メりたい、いや盗撮ダメダメ。はぁ、一生見てられる)
嬉しそうに寝顔を眺めるさゆか。

 しばらくして冷たい風が吹いて来た。
「たきさーん、起きてくださーい。風邪引いちゃいますよぉー」
(起きない…)
顔を少し近づけて、再度声をかけようとする。
「もぉ、たきさっ…」
ぐいっ
「うわぁ」
腕を引き寄せられ、向かい合う形で寝転んだ。
「つかまえたっ」
無邪気な顔で言う滝。
(な、な、なにこのファンサーーー!!) 
声にならない感情を必死におさえるさゆか。
「いつも色んな場所やお店教えてくれてありがとね。さゆかちゃんのおかげで、休みの日や仕事終わりがすごく楽しい」
(そんなふうに思ってくれてたんだ。嬉しいな)
「私もすごくすごく楽しいです」
(あなたとの過ごす時間が、このまま続けばいいのに)


 春休みが終わり、さゆかたちは2年生になった。さゆか、麻由、菅は2組、友美は5組だ。
 ある日の休み時間。疲れた顔で友美が2組に入ってきた。
「どしたの!?」
「はぁー、毎日毎日、教室に矢田のファンが来て、廊下に出るのも大変でさ」
「そんなすごいんだ」
「やばいよ、新入生も遠慮なく見にくるし。人数制限かけてほしいぐらいだよ…」
(周りがこんなになら本人はもっと大変だろうな)

 数日後、委員会に参加するさゆか。開始を待っていると隣の席に人が来た。
「あ、しらっち…」
「へ?」
顔を見上げると噂の矢田だった。
「あっ、ごめん。いつも菅がそう呼んでるの聞いててつい」
「あはは。好きに呼んでくれたらいーよ」
さゆかは矢田の顔をじっと見た。
(間近で見るの初めてだけど、これは確かにモテる顔だ。そしてこの身長…そりゃあファンつくわ)
「どうかした?」
「いや、菅が矢田くんのこと、中身も外見もいい奴って言ってたの思い出して」
「アイツそんなこと言ってたの?俺にはそんなこと言ってこないのに」
「ぬくぬくしながら言ってた」

 (今日は部活が休みらしく、委員会終わりに流れで矢田くんと一緒に帰ることになった。ファンの子たちに見られたら刺されるんじゃないだろうか)
「1年からレギュラーって凄いよね」
「まだスタメンじゃないけどね。でも、菅だってそうだよ。俺と違って、あの身長でレギュラーしてる菅はセンスと努力の人間だよ」
「ええ!?そうなの!?足が速いのは知ってるけど、いつもクラスでふざけてばっかだから、なんか意外」
笑顔を見せながらさゆかが言う。
「おーーい」
後ろから菅が駆け寄ってきた。
「なんかすげー珍しい組み合わせじゃん」
「委員会が一緒だったの」
「そうなんだ。俺、急いでるから行くな!じゃあなー!」
大きく手を振りながら帰って行く。そんな菅を見ながら
「菅がいるから俺も頑張ろうって思える」
と誇らしげに言う矢田。
「矢田くんって見た目で損してる気がする」
「へ?初めて言われたかも。得してるしか言われたことなかった」
「いや、うん、得することも多いだろうけど。見た目に注目されて、せっかくの中身の良さが
後からしか伝わらないのがもったいないなと思って。見た目に合うように人一倍努力してるのかなって勝手に想像しちゃって…ごめんね。何も知らない私に言われてもだよね」
「ううん、ありがとう」
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