貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

 パソコンデスクの前でうなだれて、両手で顔を覆う。

 怖かった。変わってしまった自分が。

 さっき別れたばかりの詩乃の声を、もう聴きたくて疼く胸も。

 くるくると表情を変える詩乃の、もっともっと色々な顔が見たいと願う好奇心も。

 たった一度抱き締めただけの詩乃の体に、もっと触れたいと焦がれる情動も。

 なにもかも、怖いほどの未知だった。

 しかしそれ以上に、詩乃がそばにいない生活が。それがなによりも、恐ろしかった。

 新しい部署では、歓迎されるだろう。なんだかんだ、親しく付き合う人も出来るはずだ。

 しかしその場所に、詩乃はいない。

 明人の騒ぐ胸を、鋭く切ない痛みが貫いた。

 これが恋の寂しさ。愛しさ。苦しみなのか。

 明人はそのまま、長いことじっとしていた。

 しばらくののち。顔を上げて、明人は立ち上がった。

 少し、頭を冷やそう。一旦、転勤のことは忘れることとする。考えても、仕方がないのだから。

 その代わり、彼女に気持ちを伝えるタイミングを見計らおう。

 思えば、まだ転勤の内示も出ていないのだ。ほぼ確定事項だとはいえ、覆る可能性もゼロではない。

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