貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
わざわざ拒むほど関心がなかったから、付き合ってくださいと言われて了承したことはある。
人並みに(それよりは少ないかもしれないが)交際した経験はあるが、こんな気持ちになったことはない。
詩乃が与えてくれる安らぎと幸福には、何を捧げても足りない気がする。
——色々と考えを巡らせながら歩いているうちに、自宅に着いた。
ひとりの部屋に入りながら、いつか彼女と同じ家に帰る日が来ればいいのに……なんて、夢想をしてしまう。
少なくとも、今夜のデートは、そんな期待を抱いてしまうような空気があった。
明人は果てしない思案を一旦打ち切って、手を洗ってコートを脱いだ。
これから、しばらくの間は彼女と会えなくなる。
会社とは、なんとか折り合いをつけたい。
それから心置きなく詩乃と過ごす時間を楽しもう——。
夢のような逢瀬のひとときから日常に帰りながら、明人はまだ詩乃のことを考えていた。