貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

旅のはじまり


 吐く息が白く立ち昇り、風に流されて消えていく。

 駅前のバスセンターには、朝早くから大勢の人が行き交っていた。

 スーツ姿のビジネスマン、キャリーケースを引いた旅行者、学生たちの群れ。

 二人はいつもより弾んだ足取りで、高速バスに乗るための列に並んだ。

「少し寒いですが、雨は降らなくて良かったですね」

「ね! 風があるからね。暖かい格好してきて、よかった〜」

 天気予報では、曇り時々雨。降ったら降ったで仕方ないなと覚悟していたが、少し風の強い曇りで済んだ。

 計画していた日帰り旅行。この日を、詩乃は指折り数えて待ち侘びていた。

 好きな人——だと、自覚してからは初めての遠出だ。

 先日のクリスマスディナーはもちろん特別な時間だったが、丸一日一緒にいる旅行はまた違った趣がある。

 バス停は、旅行を控えた人々で賑やかだ。
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