貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
恋に落ちるまでは、明人がいわゆる顔が良い男なのだとほとんど気付かずに過ごしていた。
それくらい、男性の容姿には興味がなかったのだ。
今となっては、ただ目が合うだけでもとろけてしまいそうになる。
バスが到着し、乗車のためのアナウンスが流れる。
前の乗客について車両に乗り込むと、周囲は楽しげにざわついていた。
嬉しそうな話し声が、あちこちから聞こえてくる。皆、観光に向かうのだろう。
詩乃は窓際に、明人は通路側の座席に座る。
シートは決して狭くないのだが、二人で密着出来そうな距離感だ。
すぐ隣に明人の体温が迫ると、ついドキッとしてしまう。
(明人くんは、全然意識してないみたい)
ちらりと彼の横顔を伺うが、すぐ近くにある詩乃の体に、なんの頓着もなさそうだ。
バスが出発する。大きく揺れる車体が、旅行の始まりを感じさせた。
「お昼、どこがいいですか」
明人は、タブレットを取り出していくつかのウィンドウを開いた。
「観光地ですから、行ってみてなんとなく気になった店に入るとかも良いと思いますよ。詩乃さんはこの辺が好みかなと思って、まとめておきましたが」
「わあ。色々調べてくれたんだ。ありがとう」