貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

 旅先から帰ってからもいつまでもずっと、あの土地で、二人で。

(あったかくて、気持ちいい……)

 ぎゅっと、明人の体を強く抱きしめ返す。

 お互いの静かな息遣いすら聴こえるほどに身を寄せ合って。

(肩幅、すごく広い……腕も、力強くて)

 こんなに近くにいるのに。なのに、心の奥の奥までは決して触れ合えない痛みが疼いている。

 ——ねえ。転勤、しちゃうの? わたしと離れ離れになっても、明人くんはなんにも気にしないの?

 何度も何度も言いたくて、言えなかった言葉が、溢れそうになる。

 チカチカ、と光が点滅して、再び電気が灯った。

 離れたくない。このまま、いつまでも抱きしめていて欲しい。

 もういっそ、今夜抱いて欲しいと言ってしまおうか。

 感じたことのない衝動が、詩乃の中で育っていた。

 今夜肉体の契りを結んだとしても、なにかが約束されるわけではない。

 まもなく——おそらく来年度から、彼が転勤してしまう事実は変わらない。

 それでも。それでもいい、たとえ今夜いちど限りであったとしても、明人との深い絆が欲しい。
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