貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
「お前が旦那のフリしてやるなんて、やられた方は惚れちまうだろ」
「いえ、全然」
探るような勇悟の視線を浴びても、明人は微動だにしない。
数多の女性が明人とお近づきになろうとしては、あまりの手応えのなさに諦めていく。
そんなしょっぱい成り行きでさえ、伝わってきていた。
中には、明人に本気で憧れ込んだ女性もいた。
しかし明人は、とことん相手にしない。女性が嫌いなわけではなく、本当に興味がないのだ。
「罪なオトコだな」
この容姿、この能力、この社会的地位。何もかも揃っているのに、本人は決して女性からの愛を求めない。
「どういう意味ですか」
「いや……なんでもない」
こんなにモテるのに、明人には全く応える気がない。さぞ、泣いた女性は多いだろう。
明人に惹かれる女性をもてあそんでいる訳ではないので、いいのだが。
「じゃ、その子のことも、お前の好みには刺さらなかったか」
「はあ」
明人は、詩乃のことを思い返してみた。
スーパーで見かけていたときから、いい人なんだろうなとは思っていた。
お年寄りのカゴを運ぶのを手伝ったり、騒ぐ子供を優しくなだめたり。
好感は持っていたからこそ、本屋で見かけたときに助けたのだ。
「そもそも、女性に対して好みとか好みじゃないとか、思いませんしね」
とはいえ、好みかどうかは別だ。好感を抱いたからといって、イコール恋愛に結びつくわけではない。
「相変わらずだなあ。それでこそ明人」
舟盛りを口に運んでから、勇悟はしみじみと言った。