貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

「え、えっと……、それって……」

 明人のこの顔を、以前にも見たことがある。

 初めて抱き締められたあの夜。それに、旅先で共寝したあの夜。

「……我慢してたの? ずっと」

「……はい」

 明人の大きな手が、詩乃の腰のあたりにそっと添えられる。

 たったそれだけなのに、ぴくんと身を跳ねさせてしまう。

「あなたの気持ちを確かめていた訳でもないのに、私の欲をぶつけることは出来なかった」

 じゃあ今までの、甘い雰囲気のあとにやけに突然身を翻してしまっていたのは——。

「何度、あなたを抱きたいと思ったか分かりません。ずっと、あなたが欲しかった」

 気がついたら、心臓の鼓動がうるさく轟いている。

 詩乃は熱に浮かされたように目を潤ませながら、じっと彼を見詰め返した。

 精一杯のメッセージとして、こくんと頷く。

 今夜ついに、身も心も彼のものになるのだ。

 長かったような、短かったような、初めての荒々しい片恋が、ついに実を結ぶ。

 彼の手が、詩乃の肩を抱く。

「では——」

 ああ、ついに寝室に——と思った瞬間、明人はしれっと言った。

「夕食の買い出しに行きましょう」

「へっ?」

 
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