貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
「好きな調味料メーカーまで知ってるんですよ? もう知らない仲とは言わせないよ〜」
なぜか得意げな様子に、明人は思わずふっと笑みを漏らした。
前に一度、このメーカーはドレッシングがいまいちだがスパイスは良い、とか言ったのを覚えていたようだ。
「わかりました」
確かに、もう知らない仲ではない。
あれ以来、何度も帰り道で会話を交わしている。
他愛のない連絡も、日常になりつつあった。
「では、いつがいいですか」
きゃっきゃと喜ぶ詩乃と、予定を擦り合わせる。
「やった〜。ずっと食べてみたかったんですよ、真壁さんのごはん!」
心から嬉しそうに、詩乃はニコニコしながら手帳をぱたんと閉じた。
「楽しみですね!」
詩乃の、本心が抑えきれずに溢れたような口振り。
明人は、思わず小さく声をあげて笑ってしまった。
「はい」
スーパーを出て、二人並んで帰路につく。
最近やっと、夕方には涼しい風が吹くようになっていた。
晩夏のオレンジ色の夕陽が、暖かく二人を包んだ。