貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜


「……調子が狂いますね」

 明人は少し考えてから、ゆっくりと答えた。

 詩乃は、今まで出会ってきた女性とは違う。

 だが、どう違うかというと、はっきりとは答えられない気がした。

「ゆくゆくは転勤すると伝えたら、彼女」

 あのときの詩乃の顔が、目の前に浮かんでくるようだ。

 気遣うような、考え込むような、思慮深い表情。

「そこで私はイキイキできるのか、と聞いてきたんです」

 勇悟も、明人が経営企画部に栄転すること——事実上の昇進だ——は知っていた。

 社長から直々に、指名を受けていることも。

「すごーい! とか、かっこいーい! とかじゃなく、か」

「はい」

 いわゆる「エリート」の座に、冷めたままなんとなく収まろうとしている自分。

 トップセールスの座を自ら降りて、選んだ場所で自分らしく輝いている詩乃。

「どう返したらいいか、分かりませんでした」

 勇悟は、口をつぐんだ。

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