貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜


 幼い頃から、内向的な性質で本をよく読んでいた。

 当たり前のように本を読んでいたからか、いつしか書く側に回った。

 そしたら、案外上手くいったから続けている。

 本業がある限り、これ以上に打ち込むことはないだろう。

 しかし、この書き物の趣味に対して、仕事よりははっきりとやりがいを感じていた。

 詩乃なら。きっと、読者が楽しんでいることを喜ぶのだろう。

 いや。違った。詩乃は、読者の前に、明人自身が楽しんでいることを喜んでくれた。

「明人くんの、心の中を覗いたみたい」

 あの笑顔がふっと脳裏をよぎって、明人はふるふると頭を振った。

 ひとりの女性の顔がこんなにもちらつくなんて、まったく自分らしくない。

 明人は立ち上がって、キッチンの掃除を始めた。

 大して汚れてはいないのだが、無心になりたいときは掃除をするに限る。

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