貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜


「だからって、こんな夢……」

 横たわったまま、ぽつりと呟いた。

 初めてのことに、戸惑いが抑えられない。

 強い印象の残る夢は、自分の深い願望を反映しているのだろう。

 だとすれば、まったく自分らしくない望みを抱いていることになる。

 詩乃が自分の転勤を引き留め、さらに身を委ねようとする。

 そう、なって欲しいと、心の奥底で望んでいる?

「ふっ」

 自分を嘲るような笑いが漏れる。

 彼女との間には、まだなんの絆も約束もない。

 そもそも、彼女が自分をどう思っているかも分からないというのに。

 なのに転勤を引き留めて欲しいだなんて、まったくどうかしている。

 明人は寝返りを打ち、なんとかもう一度寝ようと目を閉じた。

 まだ朝早い。数時間後には仕事があるのだから、もう少し休んでおいた方がいいだろう。

 理性で考えることと裏腹に、頭はどんどん冴えていく。

 まったく、夢ごときにこんなに心を乱されるなんて。

 まさか、自分が彼女と肌を重ねる幻惑すら見てしまうとは……。

 夢の中で感じた熱を思い出し、明人はひとり顔を赤くした。

 幻想の中で触れた彼女の肌は、うっとりするほど滑らかだった——

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