貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
戦いの日々
「早瀬詩乃って、枕営業してるんじゃないの? ちょっと可愛いからってさ」
「ちょっと、ひどいなぁ! やめなよ〜!」
意地悪い声と、品のない笑い声が廊下から聞こえた。声を潜めることすらせずに。
とある大手IT企業。ここでは、様々なITシステムを法人向けに開発している。
早瀬詩乃は、入社一年目から早くも頭角を表した。
雑用や簡単な作業を任される段階から、詩乃は注目を浴びていた。
持ち前の愛嬌に相まって、容姿の可愛らしさだけでも人目を引く。
そこへさらに、細かい配慮やマメなコミュニケーションが功を奏した。
ほどなくして、営業部の中でも主力商品を扱う課に配属される。
主に力を入れていたのは、企業の勤怠管理や進捗などを一元管理するシステム。
この会社の営業部では、これを売り込むのに躍起になっていた。
「早瀬も言い返せばいいのに。じゃないと、ほんとに変なことしてると思われるよー?」
年次の近い先輩がニヤニヤと暗い笑みを浮かべるのを、詩乃は曖昧に流した。
くだらない噂話に傷つくつもりはない。