貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

転職してよかった

 頭がぽーっとする。

 朝はずいぶん冷え込むのに、頭と体はほかほかと発熱するようだ。

 昨日は予想外に嫌な記憶が引きずり出されて、ぐったり疲れたのもある。

 しかしそれ以上に、明人との短い時間が詩乃を掻き乱していた。

 駅で会ったときの、明人の優しい声。

 顔を見ただけで、何かあったのかと気づいてくれた。

 それだけ、沈んだ表情をしていたのだろう。

「そんな顔されて、ほっとけませんよ」

 そう言った明人の声色が、表情が、手の暖かさが。

 ずっと心に沁み込んで、消えない灯を点している。

 真壁明人。改めて、彼の存在が自分の中で大きくなっていると感じる。

 性格が性格だから、詩乃には友達がたくさんいる。

 みんな大切な人だし、みんな好きな人なのは確かだ。

 でも。今まで、こんなにもあけすけに、自分の内面を晒け出せた人はいない。

 度重なるおうち会が、いつの間にか二人の間に、見えない絆を作っていた。

 落ち込んでいるのに気づいてもらえたから、嬉しいのではない。

 明人に、すんなりと自分の嫌な面を見せられたのが嬉しいのだ。


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