貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

 それは、明人が心を開いてくれたからでもある。

 人付き合いが好きではないだろう彼が、詩乃には大切な趣味のことを教えてくれた。

 彼の作品。彼だけが持っている、美しい世界。

 冷めた人柄だと捉えられやすい明人の、イキイキとした一面を見せてもらえている。

 だからこそ、詩乃自身も、過去の嫌な出来事をすんなり打ち明けられた。

 回らない頭でぼんやり考えていると、職場についてしまった。

 いつもは張り切って出勤するが、今日はなんだかおずおずとしてしまう。

 昨夜、一瞬でも、「転職して正解だったのだろうか」なんて考えてしまった。

 あれは嫌な思いをさせられた人に会って、変な気が過ってしまっただけだ。

 後ろめたく思うようなことではないのだが、なんとなく気まずさは感じる。

「おはようございます」

 自分のデスクに歩み寄りながら、部署全体に呼び掛ける。

「おはようございまーす」

「おはよう!」

 いつもより、たくさんの声が返ってきた。

 普段は、詩乃が一番乗りのことが多いのだ。

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